研究実績の概要 |
素粒子ミュオンを用いて希薄状態の水素の電子状態を調べる手法開発を推進した。本手法は、高磁場下でのミュオンスピン回転・緩和測定によって得られるミュオン (Mu) の歳差周波数を精度よく測定し、第一原理計算との組み合わせによって、実験的な区別が困難な擬似水素としてのミュオンの荷電状態 (Mu+, Mu-)を決定し、実用材料中における希薄極限にある水素の電子状態に関する知見を得ることを目指している。コロナ禍による渡航制限などの影響があり、海外でのみ行える高横磁場下でのミュオン実験は初年度しか行えなかった。そのため、代替実験として国内のミュオン実験施設であるJ-PARC MLF S1ビームラインで行なった零磁場下でのミュオンスピン回転/緩和測定で得られた実験データの解析と測定物質の第一原理計算を行なった。その結果得られた主な知見を以下に示す。 1) エレクトライド物質LaScSiと、電気伝導特性と不純物水素の関連が議論されているb-MnO2とb-Ga2O3について実験を行い、水素による構造緩和計算の結果と比較することで、擬似水素としてのミュオンの格子間位置を特定した。LaScSiでは、擬水素としてのミュオンの価数が負であることを示唆する計算結果も得られた。また、b-Ga2O3は結晶の対称性が低い物質であり、格子間位置候補が数多くある中で、実験データと矛盾ない単一の格子間位置を見出すことに成功した。 2) 太陽電池材料として研究開発が進んでいるペロブスカイト型化合物CH3NH3PbI3 (MAPbI3) のミュオン実験データ解釈のため、第一原理計算による水素付加エネルギーの格子内マッピングを行い、そのエネルギーが極小となるサイトを絞り込んだ。ミュオンはMA分子近傍にあることが確認され、ミュオンが分子運動ダイナミクスを観測していることを実験 / 計算の面から支持する結果を得た。
|