研究課題/領域番号 |
19K15034
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
石田 茂之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (90738064)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 臨界電流特性 / 鉄系高温超伝導体 / 磁束ピンニング / 人工欠陥 / 化学組成制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、鉄系高温超伝導体をターゲットに、種々の単結晶試料に対して人工欠陥の導入および欠陥構造の最適化を試み、臨界電流密度(Jc)の向上を目指すものである。まず、試料としては鉄系高温超伝導体の中で最も応用に適しているBa1-xKxFe2As2を選択し、さまざまなK濃度(ドーピング量)の単結晶を育成した。単結晶試料のJcを評価した後、高速中性子線照射を行い人工欠陥(点欠陥)を導入し、照射前後のJcの変化を調べた。照射により、Jcは大きく向上した。照射前の試料のJcは温度10K、磁場1Tの条件で、K濃度xが0.30の時に最大値0.5MA/cm2であったのに対し、照射後は、xが0.33の時に6MA/cm2になった。照射前はやや不足ドーピング領域(超伝導転移温度(Tc)が最大でない試料)でJcが最大になっていたのに対し、照射後はTcとJcがほぼ同じドーピング量で最大化されることが明らかになった。これは人工欠陥の導入によりJcを支配する磁束ピンニング機構が変化したことを示唆している。大変興味深いことに、照射後の試料について、JcがTcのおよそ2.25乗に比例するべき乗の相関関係が見いだされた。ここで、超伝導体の対破壊電流密度Jdについて、熱力学的臨界磁場Hcと磁場侵入長λを用いて、Jd∝Hc/λの関係にあることに着目した。種々の実験から、HcはTcの1.75乗に、λはTcの-0.5乗に比例することが知られている。これを用いると、JdがTcの2.25乗に比例するという関係が得られる。この関係は、本研究のJcとTcの間に見出された相関関係と一致する。これは、全試料でピン止め効率(Jc/Jd)が一定になったことを意味するともに、Jc測定によりJdという超伝導体に本質的なパラメータの情報を得られることを実証した重要な成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系高温超伝導体単結晶試料の作製や高速中性子線照射による人工欠陥の導入は予定通り実施され、その臨界電流特性の評価を行った。欠陥導入によるJc向上が確認され、またJcとTcの間のべき乗の相関関係等の興味深い研究結果が得られている。一方で、欠陥構造の直接観察においては、磁束ピンニング機構の解明に十分な実験結果がまだ得られていない。従って、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
走査型透過電子顕微鏡等による欠陥構造観察を実施し、この情報をもとに、磁束ピンニング機構を理解し、Jc向上に最適な欠陥構造および化学組成を決定する。さらに、導出した最適欠陥構造について、粒子線照射を用いずに再現する手法を確立する。本研究では、単結晶試料への元素置換やナノ粒子添加を検討している。Jc等の超伝導特性評価と欠陥構造観察を行い、狙った欠陥構造が得られているか、また実際にJcが向上するかを検証する。得られた結果は試料合成条件(出発化学組成や添加物の種類、量など)にフィードバックし、高Jc化の実現を目指す。
|