本研究では鉄系高温超伝導体をターゲットに、各種単結晶試料に対して人工欠陥の導入および欠陥構造の最適化を試み、臨界電流密度(Jc)の向上を目指してきた。研究の初年度にはBa1-xKxFe2As2について高速中性子線照射を行い、照射前後のJcの変化を調べ、照射後の試料において、Jcが超伝導臨界温度(Tc)のおよそ2.25乗に比例することを見出した。本年度は研究対象をドーパント元素の異なるBa(Fe1-xCox)2As2およびBaFe2(As1-xPx)2に拡張し、中性子線照射がJcに与える効果を調べた。その結果、これら3種類の物質に共通して、照射後のJcがTcの2.25乗に比例する関係が見出された。この結果は、測定されたJcのドーピング依存性が対破壊電流密度(Jd)のドーピング依存性を反映していることを示唆する結果であり、Jc測定が超伝導パラメータの抽出に有効であることを裏付ける成果となった。 また、高い臨界電流特性を示すCaKFe4As4について走査型透過電子顕微鏡を用いた欠陥構造観察を実施したところ、これまでに見出したCaFe2As2に加え、KFe2As2がインターグロースしていることが明らかになった。このような欠陥構造は有効な磁束ピン止め中心となり、臨界電流特性の向上に寄与すると期待される。CaFe2As2およびKFe2As2のいずれがインターグロースするか、またどのような大きさや密度で分布するかは、試料合成条件に依存すると考えられる。このように、試料合成条件の最適化がJc向上の鍵となることを示す成果が得られた。 加えて、EuRbFe4As4について、中性子回折と磁化測定により、ピン止めされた磁束がEuの持つ磁気モーメントの方向を決定する様子を観測した。磁性超伝導体でありながら高いJcを有するという本物質の特徴に起因するユニークな現象を明らかにした成果である。
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