ゲルマニウムスズ(GeSn)はシリコンを遥かに上回る高い電子・正孔移動度が理論的に予測されているIV族半導体である。GeSn-CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)を実現する上での最大の課題は、Ge中のSnの低い熱平衡固溶限にある。室温におけるSnの固溶限は1%未満であり、超高移動度が予想される直接遷移化GeSnの形成に必要な10%以上のSn添加は通常の結晶成長法では困難である。また、トランジスタ作製プロセスにおける活性化アニールなどの熱負荷は、Sn脱離や界面品質劣化などトランジスタの高移動度化を図る上での制約となる。
本研究では、新規結晶成長技術の開発とトランジスタ作製工程における熱処理プロセス改善によって、GeSnがもつ優れた電子物性をトランジスタ性能評価を通して実証することを目的としている。本課題ではミリ秒の急速加熱が特徴のフラッシュランプアニール(FLA)を用いた高Sn組成GeSn薄膜(Sn 10%)の形成を提案し、またFLAによるGeSn中のドーパント活性化でSn拡散を抑制し高品質なpn接合の形成に成功した。今年度は高移動度GeSnトランジスタに向けて、ゲートスタックの開発を行った。ゲートスタックとしてTiN/HfO2(3 nm)/Al2O3(2 nm)構造を用いて、熱処理としてFLAを用いたゲートファーストプロセスの検証を行った。FLA条件として3ミリ秒程度の熱処理の場合、GeSnチャネルからのSn脱離がほぼ完全に抑制され、物理分析から絶縁膜中へのSn拡散も見られないことがわかった。この結果、トランジスタとして良好な動作がみられ、またGeトランジスタに対するオン電流の優位性から移動度向上を示唆する結果も得られた。
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