既存の電子デバイス性能の限界を突破し得る光演算プロセッサの実現に向けて、超小型なシリコン光演算回路の開発を行った。本研究では、小型化と低損失化が両立でき、かつ製造が容易なリング光共振器を用いたシリコン光演算回路の検討を行った。 はじめに、シリコンリング光共振器を、可変パワー分配器および可変位相シフタとして動作させられることに着目し、これらを多段に接続した光行列積演算回路(光ユニタリ変換器)を設計し、その試作を行った。通常の等分配器と遅延線を組み合わせたマッハツェンダ干渉計で構成した光演算回路に比べて、素子当たりの設置面積を1/10以下に低減することを明らかにした。 また、最終年度には、シリコン光行列積演算回路の試作が遅れていることを考慮して、シリコン光全加算器の検討を行った。シリコン光共振器を光スイッチとして動作させられることに着目したものであり、シリコンリング共振器を多段に接続した光デジタル演算回路(光全加算器)の構成を新たに提案した。光回路素子の設置面積の観点から、32ビット程度まで演算次数を拡大できる見込みがあることを示した。 上記2種類の光演算回路において、いずれもシリコンリング共振器を用いることによる飛躍的な小型化・高集積化が可能であることが示された。一方で、シリコンリング共振器を用いた光演算回路は、光共振器の原理に基づいて動作することから、定常状態になるまでの遅延時間が発生するため、小型化と低遅延化の両立に課題があることも明らかとなった。
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