研究課題/領域番号 |
19K15038
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本間 浩章 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (70833747)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | IoT / MEMS / 振動発電 / エレクトレット / 非定常振動 / 広帯域化 |
研究実績の概要 |
本研究は環境中に多く存在する加速度0.1 G(0.1 G=0.98 m/s2)以下、周波数帯域500 Hz以下の非定常振動からエネルギーを回収して発電するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型の振動発電素子の実現に挑戦する。特にエレクトレット(永久電荷)を用いた振動発電機構の電気的損失(=機械-電気変換による電気的出力)増強によって帯域幅を拡張することで、低加速度0.1 G以下の微弱な環境振動においても効率の良い振動発電を実証する。本研究により環境振動からの常時充電が可能となり、設置場所を選ばないIoT無線センサ端末の電源として、「トリリオン・センサ」社会の実現に貢献する。 本研究では、電気的損失を高めるために高電荷密度のエレクトレット櫛歯構造を製作し、非定常振動型発電素子の原理検証に取り組む。研究代表者らはこれまでに、櫛歯構造の側面にエレクトレットを形成する技術を用いてエレクトレット型MEMS振動発電素子を実現した。さらにSPICE等価回路モデルを作成し、エレクトレットの高密度化で電気的損失が増えると共に帯域が拡大する可能性を示した。 本年度は最初に、従来素子のエレクトレット電位を高めることで非定常振動への応答性向上を実験的に示した。しかし帯域拡張は不十分であり更なる高密度エレクトレットが必要だが、エレクトレット自身の静電拘束力により櫛歯の剛性が維持できない。 このため、剛性を維持し電気的損失を増強するために短いエレクトレット櫛歯構造(従来の1/10程度)を持つMEMS振動発電機構を製作した。これにより櫛歯幅を細くしても高密度エレクトレットを形成可能となった。 また、環境振動を再現可能な振動試験系を構築し、現場計測した高速道路高架橋の振動を研究室で再現することに成功した。これにより非定常振動においても同一条件で試験を行うことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、「短櫛歯構造を持つ振動発電素子の作製」と「非定常振動の再現法の確立、測定系の準備」を進めることを計画していた。この2つは概ね達成できている。 「短櫛歯構造を持つ振動発電素子の作製」では、従来素子の櫛歯寸法(長さ700マイクロメートル、幅20マイクロメートル)から長さを75マイクロメートル、幅を10マイクロメートルに微細化した発電素子構造の作製に成功した。さらに櫛歯の幅を小さくできたため櫛歯本数を従来の900本から1500本に増やしつつ素子面積を縮小することにも成功した。製作した素子を振動試験装置に固定し駆動させると短櫛歯構造を持つMEMS可動電極が外部振動により励振することを確認した。 「非定常振動の再現法の確立、測定系の準備」では、フィードバック機構を有する振動試験機を新たに導入した。本装置はサンプルと共にリファレンス用の加速度センサを取り付けることで加速度や変位、振動周波数のフィードバック制御を可能としている。これにより、事前に現場計測を行った高速道路高架橋の加速度時系列データ(12秒間)を研究室内で再現することに成功した。 また予備検討として、従来の長い櫛歯構造を持つ振動発電素子において、エレクトレット電位を-60 Vから-250 Vへ高め非定常振動で動かした際、例えば整流用ダイオードの閾値(0.5 V)を超える出力電圧が得られる期間を6.7倍に拡張することに成功した。これにより、エレクトレット密度の増加が非定常振動における発電電圧の改善に有効であることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は「電気的損失増強による広帯域化」を実験的に示し、非定常振動型発電素子を実現するために必要な設計パラメータを明確にすることを計画している。 本年度、製作した短櫛歯構造の発電素子構造にエレクトレット層を形成することで発電素子を完成させる。さらに異なるエレクトレット密度を持つ発電素子を複数製作し、電気的損失量の違いによる帯域幅を比較することで、帯域幅拡張(> 50 Hz)のために必要なエレクトレット密度を求める。 次に本年度導入した振動試験機に短櫛歯構造の発電素子を取り付け非定常振動により駆動する。さらに異なるエレクトレット密度を持つ発電素子からのコンデンサへの充電速度を比較する。これにより、振動周波数に関わらず常時コンデンサへの充電が進み、さらに電気的損失増強により充電速度が改善可能であることを実証する。 これらにより非定常振動型発電素子の原理検証を行い、設置場所を選ばないIoT無線センサ端末の電源としての有効性を示す。
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