研究課題/領域番号 |
19K15041
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
陳 オリビア 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 特任教員(助教) (70837856)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低消費電力 / 近似計算 / 断熱回路 / 超伝導集積回路 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
第5期科学技術基本計画(Society 5.0)で新たな「超スマート」社会を実現するために, 基盤技術となる,人工知能や,ビッグデータ解析技術等の強化は不可欠である.しかしながら,半導体回路では,微細化の限界と電力消費の諸問題でムーア法則の限界を迎えており,半導体に比べて革新的に消費電力の低い集積回路が必要となる.このため,量子効果を用いた無散逸な情報保持,及び超伝導配線による充放電フリーな情報伝播という利点を有する超伝導論理回路が注目されている.本研究では似計算であるStochastic Computing(SC)を低電力超伝導回路である断熱的量子磁束パラメトロン(AQFP)に導入することで,初めて1Wで1千兆回演算 (PetaOPS/W)可能な高性能化深層学習専用チップの実現を目指す.本研究で提案するアーキテクチャは,面積効率の良いハードウェアを実現しやすい方式であり,従来のCMOS回路に比べて非常に小さい消費エネルギーで,高性能深層学習チップの実現を可能にする. 本研究の主な研究課題は,①SC演算を用いたAQFP(以下 SC-AQFPと呼ぶ)深層学習専用プロセッサの機能ブロックの設計と評価し,②オンチップ可能なAQFP乱数発生器をプロセッサへ導入と評価を通じて,最終的に③SC-AQFP深層学習専用チップの作製と動作実証への展開である.今年度は,まず①に関する大規模集積回路設計に不可欠な自動化設計環境の開発を中心に研究した.また,構築した自動化設計環境を用いて,深層学習専用プロセッサの機能ブロックの設計と評価を行なった.さらに,②に関連して,AQFP 乱数発生器の設計と評価を行なった.以上の成果は,従来のCMOS回路に比べて非常に小さい消費エネルギーで高性能深層学習チップの実現を可能にする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,SC演算手法をAQFP論理回路に導入することで;,高性能・低消費電力・低コストの深層学習専用チップの実現を目指した.まず.大規模回路の設計に不可欠な自動化設計環境の構築のための一連のツールを開発と検証を行なった.そして,超伝導深層学習専用プロセッサ(AIチップ)を実現のためには,超伝導論理回路に最適なアーキテクチャを確立した.さらに,超伝導深層学習専用プロセッサの機能ブロックをこれまで構築した設計環境で設計と動作実証を行なった.これらの成果は、提案したAIチップを実現することが十分期待される. これまでの研究成果を論文としての発表と国際学会での招待講演などを行なった.今年度の補助金は,主に上記の研究を遂行するための測定設備の購入費,学会参加費と論文掲載費に当てられた.
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今後の研究の推進方策 |
深層学習専用チップにストカスティック演算を取り入れるためには,オンチップ乱数発生器が必要となる.そこで,次年度の前半には,ゆらぎを容易に導入できるAQFP 回路を用いることで,乱数発生器を設計する.乱数性能検定ソフト(NIST SP800-22)を使用して、シミュレーションで得られた乱数を評価し,回路パラメータを最適化する.その後,産総研の超伝導集積回路プロセスを用いて作製し,液体ヘリウム中で動作実証と評価を行う.この際,乱数列の質について詳しく評価を行い,実験結果とシミュレーション結果の一致性を考察し,回路設計にフィードバックする. 年度の後半では,設計したオンチップ乱数発生器とコンポーネント回路を組み合わせることで,深層学習専用チップを設計する.設計したチップを,産総研の超伝導集積回路プロセスを用いて作製し,液体ヘリウム中で動作実証及び評価を行う.これまでの結果を超伝導最大級学会であるASCで発表すると,論文誌に投稿する予定.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの拡散による学会の中止(通信学会)と,共同研究の打合せをオンライン化にしたことによって,旅費と人件費の一部を次年度に使用する予定である.翌年度分として請求した助成金は当初申請した通りに使用予定となる.一方,今年度生じた次年度使用額は実験補助の人件費に使う予定である.
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