第5期科学技術基本計画(Society 5.0)で新たな「超スマート」社会を実現するために, 基盤技術となる,人工知能や,ビッグデータ解析技術等の強化は不可欠である.しかしながら,半導体回路では,微細化の限界と電力消費の諸問題でムーア法則の限界を迎えており,半導体に比べて革新的に消費電力の低い集積回路が必要となる.このため,量子効果を用いた無散逸な情報保持,及び超伝導配線による充放電フリーな情報伝播という利点を有する超伝導論理回路が注目されている.本研究では似計算であるStochastic Computing(SC)を低電力超伝導回路である断熱的量子磁束パラメトロン(AQFP)に導入することで,初めて1Wで1千兆回演算 (PetaOPS/W)可能な高性能化深層学習専用チップの実現を目指す.本研究で提案するアーキテクチャは,面積効率の良いハードウェアを実現しやすい方式であり,従来のCMOS回路に比べて非常に小さい消費エネルギーで,高性能深層学習チップの実現を可能にする. 本研究の主な研究課題は,①SC演算を用いたAQFP(以下 SC-AQFPと呼ぶ)深層学習専用プロセッサの機能ブロックの設計と評価し,②オンチップ可能なAQFP乱数発生器をプロセッサへ導入と評価を通じて,最終的に③SC-AQFP深層学習専用チップの作製と動作実証への展開である.今年度は,まず①に関する大規模集積回路設計に不可欠な自動化設計環境を完備した.また,構築した自動化設計環境を用いて,小規模深層学習専用プロセッサの設計と評価を行なった.さらに,②に関連して,AQFP 乱数発生器を用いたSC-AQFP深層学習プロセッサユニットの実装と動作確認を行った.以上の成果は,従来のCMOS回路に比べて非常に小さい消費エネルギーで高性能深層学習チップの実現を可能にする.
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