研究課題/領域番号 |
19K15044
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大島 大輝 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任助教 (60736528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 垂直磁気異方性 / Niフェライト / 人工積層膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、強磁性絶縁体/強磁性金属/非磁性金属を繰り返した人工積層膜の作製を試み、垂直磁気異方性を生じる作製条件の検討を行った。強磁性絶縁体としてNiフェライト、強磁性金属としてFeCo、非磁性金属としてCrを選択し、マグネトロンスパッタリング法を用いてサンプルの成膜を行った。Niフェライト、FeCo、Crの膜厚はそれぞれ、3、0.6、10 nmとした。成膜後、真空中で熱処理を行いサンプルの磁気特性を測定した。熱処理温度により垂直磁気異方性の大きさは変化し、200もしくは250度のときに垂直磁気異方性が大きくなるという結果が得られた。これは、熱処理により強磁性絶縁体と強磁性金属の界面状態が変化したためと考えられる。ただし、得られた垂直磁気異方性エネルギーは反磁界エネルギーより僅かに小さく、結果としてサンプル全体では面内磁化膜となってしまっている。この一因はNiフェライトにあると推測される。過去の報告によると、Niフェライトは磁歪により負の垂直磁気異方性を持つとされており、それが膜全体の垂直磁気異方性を低くしてしまった可能性がある。そのため、磁化が比較的小さく、絶縁性の高いZnフェライトを用いて実験を行うことを予定している。また、非磁性金属としてCrを選択したが、スピントルク磁化反転を行うには、スピン軌道相互作用の大きなPt等が望ましい。次年度はZnフェライトやPtを用いた膜構成の検討も行う。 以上のように、サンプルは面内磁化膜になってしまったものの、比較的垂直磁気異方性の大きなサンプルが作製できたため、電圧印加を試すことができるサンプルの作製に成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所望の磁気特性には少し届かなかったものの、初年度で計画していた電圧印加を試すサンプルの作製には成功し、次年度に予定していた実験は開始可能である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では予定していた、電圧印加により磁気特性を制御する実験を行う。微細加工技術により数μm幅のホールクロスを作製し、その上に絶縁層を介して電圧印加用の電極を形成する。電極に電圧を印加した際の磁気特性の変化をホール測定もしくはKerr効果測定により測定するが、電極はそれぞれの測定に合わせてAl、もしくは透明電極であるITOとする予定である。この実験を積層膜の繰り返し回数を変化させて行うことで、繰り返し数が多くなっても、電圧印加による磁気特性の変調が有効かを調べる。 次に、電圧アシスト磁化反転の実験を試みる予定であるが、そのためには膜構成の検討が必要であると考えている。Crによりスピンホール効果が生じるかは不明だが一般的にはその効果は大きくないと考えられるため、Crをスピン軌道相互作用の大きなPtにすることが望ましい。併せて、NiフェライトからZnフェライトへの変更も検討する。負の垂直磁気異方性を有すると報告されているNiフェライトは膜全体の垂直磁気異方性を低減させる原因になる可能性があるため、Znフェライトに変更し、垂直磁気異方性の向上を狙う。電圧アシスト磁化反転実験を行う素子の検討も行う。膜をホールクロスに加工しただけでは形状異方性の影響によりサンプルは面内磁化膜になりやすいが、サンプルを数百から数十nmのドット状に加工すれば、形状磁気異方性の効果が小さくなり、サンプルは垂直磁化を保ちやすいと考えられる。膜構成の検討、素子構造の検討を行うことにより、無磁場で磁化が基板法線方向を向くサンプルの作製を試みる。その後、電圧アシスト磁化反転を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
積層膜を効率的に作製するためにスパッタ用電源を購入する予定であったが、積層膜の膜構成が初年度終盤まで決まらず購入に至っていなかった。次年度には電源を購入する予定である。
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