研究課題/領域番号 |
19K15045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 侑介 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00800484)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | AlN |
研究実績の概要 |
窒化インジウムガリウム(InGaN)系高出力レーザダイオードと非線形光学結晶を組み合わせた第2次高調波発生(SHG)は、小型かつ高効率な深紫外コヒーレント光源を実現するための有力な手段である。本研究では非線形光学材料として窒化アルミニウム(AlN)に注目し、横モード位相整合によるSHGデバイスを実現する。積層方向にAlNを極性反転させる技術が鍵となるため、申請者らが開発した高温ウェハ接合およびスパッタ条件制御を応用することでデバイス実証を目指す。本研究では、デバイスに適した極性反転方法を開発することでSHG動作を実現することを目指す。前年度は研究のコアとなる極性反転方法の改良により、膜厚850nmでクラックフリーなAlN薄膜の形成に成功した。これまではクラックの発生により膜厚が制限されており動作波長が深紫外に制限されていたが、本成果により近赤外帯での動作可能性が示された。本年度は、本試料に対して高角散乱環状暗視野走査型透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)観察を初めて行い、表層から50 nm下部の領域において極性反転構造を確認した。この領域はSIMS測定から酸素濃度にピークが見られており、AlxOyやAlxOyNzが極性反転のトリガーとして機能していることが示唆された。さらにHAADF-STEM観察領域において電子エネルギー損失分光法(EELS)を実施し、極性反転領域で酸素ピークが見られることを確認した。これらの結果から、酸素濃度分布が極性反転と深く相関していることを本試料において初めて確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は新型コロナウィルスの拡大のため三重大学に出張してデバイス作製用の試料作製を定期的に行うことができず、手元にある試料のHAADF-STEM、EELS観察に注力した。これまで収束イオンビーム(FIB)を使用して観察試料の作製していたが、イオンビームによるダメージ層が形成されてしまうためHAADF-STEMによる原子像観察の妨げとなっていた。そこで、本年度は砥粒研磨とArイオンミリングを併用した低ダメージ試料作製に取り組み、結果として明瞭な原子像観察に成功した。HAADF-STEM観察には大阪大学 超高圧電子顕微鏡センターJEM-ARM200を使用することができたのも像観察に成功した要因であると考えている。STEM、SIMS、EELSを併用することで極性反転には酸素が介在していることが強く示唆され、AlxOyやAlxOyNzが極性反転のトリガーとして機能していることを支持する結果となった。本結果はメカニズムの解明において重要な情報となるため、今後のデバイス作製に活用する。
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今後の研究の推進方策 |
まず三重大学でデバイス用試料を複数成膜し、所望の膜厚で極性反転が生じる条件を探索する。同時に、膜中不純物濃度の低減にも取り組む。スパッタ膜では欠陥準位やアーバックテールによる材料吸収を抑制することが本質的に重要であり、特に炭素が形成する欠陥準位は4.7 eV付近の強い光吸収と相関をもつことが知られている。現状では5E18 cm-3以上の高い水準にあるため、ターゲットやスパッタ条件の調整により1E18 cm-3未満に低減する。続いて、電子線リソグラフィー装置を使用して光導波路デバイスの作製に着手する。構造散乱による光損失は材料吸収より1桁低いオーダになるものの、レイリー散乱は波長の4乗の逆数に比例するため短波長になるほど細かい側壁ラフネスに留意する必要がある。例えばアルカリ溶液エッチングによるatomically flatなm面形成を利用して導波路側壁を形成するなど、窒化物半導体の特徴を活かした技術を積極的に利用する。これらの取り組みによって低損失導波路を実現し、SHGを実証するための基礎技術を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの拡大により予定していた出張・実験ができなかったため。
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