研究課題/領域番号 |
19K15048
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
服部 吉晃 神戸大学, 工学研究科, 助教 (90736654)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 表面拡散 / エッジ拡散 / 2次元島 |
研究実績の概要 |
有機半導体デバイスの実用化にはキャリア移動度の向上が必要である。移動度の低下は結晶粒界で起こるため、デバイスの有機半導体層の粒界を少なくすることが有効であるが、今だ、商用利用可能な技術は確立されていない。真空蒸着法は現状の半導体シリコンデバイスでも使われている一般的な薄膜の作製方法であり、有機半導体薄膜への技術転用が容易であるが、真空蒸着法では有機半導体薄膜が多結晶膜になってしまうので、結晶粒を大きくする蒸着手法を見出すことが重要である。結晶粒は結晶核から成長するので、製膜開始直後の結晶核の核密度を減少し、形成過程を制御することが重要であるため、薄膜の初期成長に関して調査を行った。 有機半導体デバイスに使われる低分子材料は基板から層状に一層ずつ成長していく性質があるが、1層目が完成する前に蒸着を止めて、その形や密度を調べた。結晶核の密度は、蒸着前の基板の表面処理や蒸着中の基板温度により変わることが分かった、一方で、蒸着条件にかかわらず、結晶核の形は核密度が減少するほどフラクタル状に複雑な形になった。これらは基板に到達した有機分子が基板の表面で起こす表面拡散と、既存の安定した結晶核に取り込まれた有機分子が核の周囲を拡散するエッジ拡散によって説明が可能である。表面拡散が大きいほど核密度が減少し、エッジ拡散が大きいほど単純な形の結晶核が形成される。様々な蒸着条件で実験を繰り返し、これらの関係を分析した結果、エッジ拡散は基板の表面処理に依存しないことが分かり、材料固有のもつ物性値のようにみなせることが分かった。デバイス応用を考える上では、エッジ拡散は大きい方が好ましく、これらの値は分子間の相互作用によって決まるために、近年研究が進んでいる細長い棒状の低分子の構造において、エッジ拡散の観点から骨格や側鎖の材料設計を行うことが重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題である、真空蒸着法で大きな粒径をもつ薄膜を得るための指針を初年度に明らかにすることができた。初年度に得られた結果は、真空蒸着法における、一般的なパラメータである基板温度や圧力、蒸着速度などを最適化しただけでは、デバイス応用上望ましい、大きくて結晶粒界がシンプルな薄膜を作ることは困難であることを普遍的に示唆するものである。今後は、配向性のある基板や、結晶核を意図的に形成する手法などの工夫が必要であること考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
基板に到達した分子の拡散をより積極的に制御を行う必要がある。初年度は均一な基板上に単純に蒸着して実験を繰り返していたが、意図的に凹凸や結晶核を作り、それらが拡散運動にどのように影響するのか調べ、制御の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画当初は、作製した有機薄膜の電気的評価のために、電気測定用の装置の予算を計上していたが、薄膜の成長メカニズムの研究を優先的に行ったため、次年度の使用が生じた。一方で、研究計画の段階では想定できなかった基板表面の自己組織化単分子層やレジスト材料のパターニングを行うための装置が新たに必要なことが分かったので、関連する装置を購入する計画である。
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