研究課題
光周波数コムは周波数軸上で規則正しく並んだ「光のものさし」であり,幅広い科学や産業分野に変革をもたらす重要な光技術である.長さの国家標準(特定標準器)が近年に光コム発生器をもって置き換えられたほか,光格子時計を利用した高精度な時刻標準の生成にも光周波数コム技術は欠かせず,今後身近な電子機器や通信技術へ波及する見込みである.一方で,既存の光コム装置は大型固体レーザもしくはファイバレーザが主流であり,消費電力,筐体サイズおよび作製コストなどの課題が山積している.本研究では,独創的な超高非線形導波路による高効率光コム発生源の基盤技術構築を目標とする.2次元層状物質であるグラフェンは桁違いに大きい3次非線形光学効果(n2:Si比>10^4)を有する傍ら,周囲の材料による励起光の非線形吸収や伝搬モードとの重なり等の課題がある.そこで,本年度は逆リブ構造のグラフェン埋込SiN導波路を設計し,実際の素子作製まで終えた.SiN導波路内の光電界分布と2次元層状物質の重なりを最大化することにより,光-物質相互作用の最大化を目指す.作製プロセスでは,化学機械研磨(CMP)工程の導入により,平坦化したSiN導波路上にグラフェン微小パターンを形成した後,低温成膜SiNにより再成長を図った.本素子の静特性を評価した結果,グラフェンの特異な偏光伝搬依存性が観測され,低損失かつ超小型の偏光子として働くことがわかった.並行して,本予算により90fs以下の超短パルスレーザーを年度内に導入したことから,短パルス光による広帯域光周波数コムへ順次適用予定である.研究成果として,招待論文や国内外の学会発表を複数実施したほか,本分野における一連の研究業績によりレーザー学会奨励賞を獲得した.
2020年度 レーザー学会 奨励賞
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
電子情報通信学会論文誌C
巻: J103-C ページ: 78-85
レーザー研究
巻: 48 ページ: 530-534