本研究では、低コストで大量生産を可能とするシリコンフォトニクス技術を用いた光ピンセットチップの開発を行う。高屈折率材料であるシリコンはサブミクロンオーダー寸法の導波路構造内に光を閉じ込めることができ、高密度でのターゲット捕獲機構集積を可能とする。その中で、本実施者らが独自に開発してきた垂直湾曲導波路加工技術を用いることで、チップ表面上の溶液中に数ミクロンサイズの集光点をつくりだすことができ、2次元配置によるターゲットの捕捉・操作機能の実現が期待できる。 本年度は、昨年度までに開発した作製プロセスを用いて、単体垂直湾曲導波路と円環状2次元配列湾曲導波路を集積した評価チップを作製した。まず、大口径ウエハ対応CMOSファウンダリ施設を利用しベースの光集積回路を作製し、小片チップ化後に垂直湾曲導波路加工を行った。その後、ポリスチレン球、もしくはシリカ球、油脂を混入した溶液をガラス板との間に封入し、評価デバイスを完成させた。実際にチップにCバンド帯の赤外光を入れ、赤外線カメラおよび可視光カメラにより、出力側の光プロファイルおよび、ターゲットの挙動を観察した。ブラウン運動によるターゲットの移動は観察できたものの、時間経過とともに垂直湾曲導波路形成時にできる溝構造に密集してしまう結果となった。これは、ターゲットの比重が溶媒に対して大きいことが原因であり、溶液成分の再検討や流路形成により液中集光位置までターゲットを移動させることができると考察される。 実施期間を通じて、3D-FDTD法による液中集光のためのデバイス構造設計、および二次元配列手法により開口度を自由に制御可能であることを明らかにした。これはターゲット補足力の制御につながるため、光ピンセットを用いた様々なアプリケーション応用につながる。また、実用化に向けて重要基盤となるCMOSファウンダリ施設を用いた作製プロセスの確立に成功した。
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