研究課題/領域番号 |
19K15060
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大野 元寛 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (30821970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 3Dプリンティング / セメント系材料 / 積層性 / せん断強さ / 温度依存性 / 時間発展 |
研究実績の概要 |
1.種々の材料・環境条件に対する,せん断強さのデータ取得と予測モデルの構築 石灰石微粉末ペースト(LP),セメントモルタル(CM),3Dプリンティング用モルタル(3DPM:通常のモルタルに急硬材等を添加したもの)の3種の材料に対し,異なる温度環境下でのせん断強さの時間発展を,ベーン試験によって測定した.得られた実験結果から,せん断強さの時間発展には(i)線形で緩やかな上昇フェーズおよび(ii)指数関数的に急激に上昇するフェーズがあることが確認された.前者はLP,CM,3DPMの全てにおいて見られ,分子間力に起因する凝集によるものと考えられる.後者は,3DPMにおいてのみ見られ,急硬材の添加量および環境温度に左右されることを確認した.これらのデータから,せん断強さの時間変化を,与えられた使用材料,配合,環境条件から予測するモデルを構築することができる. 2.種々の材料・環境条件に対する,積層性の予測モデルの検証 上記の3種の材料に対し,セメント系材料の小型3Dプリンタを用いて積層試験を行った.積層試験と並行して各種材料に対してベーン試験を実施し,得られたせん断強さから積層性(最大積層可能高さ)を予測し,実測値との比較を行った.予測モデルは,積層にともなう自重の増加を,最下層の最大せん断応力面での応力増加に変換し,そのせん断応力がベーン試験で測定されたせん断強さに達した時に崩壊すると仮定した.実験の結果から,LPとCMでは予測が実測を概ね評価可能である一方,3DPMでは実測を過小評価した.3DPMでは少量のサンプルからベーン試験により測定されるせん断強さと,積層体中の材料の実際のせん断強さに乖離が生じている可能性があることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において,積層性の一般化予測モデル構築のための基礎データを得ることができた.この基礎データにもとづき,使用材料・配合・環境条件から,積層性を支配する材料物性(本研究では,これをせん断強さとした)を予測可能なモデルの構築へ繋げることができる.追加実験により更なる検討を行う必要があるが,次年度に十分実施可能な範囲である. また,着目する材料物性(せん断強さ)から積層性を予測するモデルについても,積層試験を通して検証を行うことができた.3DPMでの予測は実測を過小評価しているが,追加の実験と検討を次年度に行うことで,精度向上が可能と考えられる. 最後に,積層中の変形量(圧密沈下)に関する予測モデルの構築に関しても,当初の予定通り,次年度にデジタル画像相関法を用いた積層体の変位測定を行うことで,達成可能と認識している.
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今後の研究の推進方策 |
1.使用材料・配合・環境条件と材料物性の関係に関するデータの更なる取得 今年度に得られた基礎データに加え,より多様な配合・環境条件に対するデータを実験的に取得し,せん断強さの一般化予測モデルを構築する.特に,次年度には環境の温度に加えて湿度の影響にも着目し,サンプルで測定されるせん断強さと積層体(比表面積が大きく,水分散逸が卓越すると考えられる)の実際のせん断強さとの乖離を説明することを目指す.また,変形量の予測モデルの構築のため,せん断強さに加えて剛性および粘着力についても測定を行い,新たな基礎データとする. 2.積層中の変形量に関する予測モデルの構築 上記の材料物性に関する基礎データと,デジタル画像相関法による積層体の変位測定データにもとづき,変形量に対する予測モデルを構築する.積層試験は,種々の使用材料・配合・温湿度に対して実施し,モデルの適用可能性を検証する. 上記1,2によって,与えられた使用材料・配合・温湿度条件から,施工中の積層可能高さと変形量を予測可能な,一般化解析手法が構築できる.
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