研究課題/領域番号 |
19K15066
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
土井 康太郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 独立研究者 (80772889)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腐食 / コンクリート / 鋼材 / 鉄筋 / メカノケミカル腐食 / 急速ひずみ電極試験 |
研究実績の概要 |
我々のこれまでの研究により、常に荷重が加わる環境では材料変形により不働態皮膜が破壊され、露出した新生面において腐食が進行する、すなわち応力も腐食を促進させる要因であることが明らかになっている。我々はこのような力学的因子と化学的因子の複合により腐食が促進される環境をメカノケミカル腐食環境と呼び、力学試験と電気化学試験を組み合わせたメカノケミカル腐食の評価解析手法の確立を目指している。 今年度は、鉄筋の腐食に特に重要な役割を持つ塩化物イオンのメカノケミカル腐食環境における影響を検討するため、SD345鋼引張試験片を用いて、様々な塩化物イオン濃度となるよう調整した飽和Ca(OH)2溶液中で急速ひずみ電極試験を行った。Hausmannにより、コンクリート中で鉄筋に腐食を発生させる臨界塩化物イオン量は、コンクリート内の塩化物イオン量と水酸化物イオン量との比で表され、その値は[Cl-]/[OH-]=0.6であることが報告されている。本研究では、応力が腐食発生を加速させるとの仮定の下、Hausmannの報告よりも小さい[Cl-]/[OH-]=0, 0.2, 0.4における鋼材の腐食挙動を検討した。 急速ひずみ電極試験では、試料の腐食発生と進行をアノード電流の増加と減衰で評価することができる。その中でも、本研究ではひずみ付与後の電流元帥に着目した。[Cl-]/[OH-]=0の場合には、ただちにアノード電流はひずみ付与前の値まで戻った。一方で、[Cl-]/[OH-]=0.2, 0.4の場合には、アノード電流減衰の停滞が生じた。このことから、応力のない環境での臨界塩化物イオン量よりも1/3程度の塩化物イオン量でも腐食が生じる可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は急速ひずみ電極試験法を用いて、メカノケミカル腐食環境で腐食発生する最小の塩化物イオン量を定量的に求めることができた。塩化物イオンは鉄筋の腐食発生に最も重大な影響を与える因子であり、その因子がメカノケミカル腐食環境においても腐食発生に重大な影響を及ぼすこと、さらには応力のかからない環境と比較してより少量でも腐食を惹起し得ることが明らかになったことは、今後のメカノケミカル腐食研究において重要な指針となる。一方でその他の腐食因子、例えば溶存酸素や湿度の影響さらには他の変形モード(疲労など)に関する知見は得られていないため、令和2年度に検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
急速ひずみ電極試験法を用いることで、溶液中における鉄筋の腐食挙動を電気化学的に捉えられるようになった。今後は、コンクリートが実際に置かれる環境、すなわち、繰返し応力に曝されつつ、湿度や溶存酸素量が変化する環境での電気化学的評価を行う。具体的には、モルタルに埋設した引張試験片を用いて、周囲の湿度と溶存酸素量が変化する環境での腐食疲労試験を行い、得られた電解化学データと腐食量の定量的な評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、10月の台風19号による国際学会参加キャンセルや2月以降の新型コロナウイルス蔓延による出張および学会参加の自粛が発生し、当初予定していた旅費の使用がかなわなかった。2020年度は余剰分を電極の購入や引張試験片の加工(成形、熱処理)に充て、本来の申請分は予定通り使用する。
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