本研究の目的は、海洋鉄筋コンクリート構造物の維持管理の高度化および点検の効率化を図るために、桟橋上部工を対象として、塩害による劣化が進行しやすい箇所およびその条件を明らかにすることである。本研究では桟橋上部工下面における塩化物イオンの供給に着目して、①実桟橋における現地測定、②数値解析によるパラメトリックスタディーを実施し、桟橋内における部材の位置や海象条件等の違いによる塩化物イオン供給量の変化やその空間的な分布に影響を及ぼす要因を検討する。検討結果から、重点的に点検する箇所や劣化の兆候をモニタリングするセンサを設置する箇所を検討し、維持管理の高度化および点検の効率化に資する情報を提案する。 ①について、実桟橋の上部工下面における付着塩分濃度測定を1施設において実施した。その結果、概ね海面からの距離が近いほど付着塩分濃度が高い結果となった。②について、まずは現地調査を実施した桟橋上部工を対象に鉛直二次元の風況解析を行い、風況と付着塩分濃度との関係に相関があることが明らかとなった。その後、海面と部材底面との距離や桟橋上部工の形状(前垂れの長さや梁高さ等)を変化させてパラメトリックスタディーを実施した。その結果、桟橋上部工の形状に関係なく、前垂れや梁底面から剥離した流れが床版に向かい、床版の中央から陸側にかけて流れが作用していることが確認された。この流れにより、床版に塩分が供給されているものと考えられる。また、海面と部材底面の距離が近い場合、桟橋上部工下面に吹く風が速くなり、流れが乱れやすくなることも確認され、潮位や桟橋上部工の形状は付着塩分の空間的な分布に影響することが確認された。 本研究の成果から、桟橋上部工下面の風況解析により付着塩分の定性的な空間分布を把握することが可能であることが示され、重点的に点検する箇所やセンサ設置箇所を予め選定することが可能となった。
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