研究課題/領域番号 |
19K15077
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
丸山 泰蔵 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (90778177)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 弾性波 / 非線形超音波法 / 接触音響非線形性 / 高調波 / 分調波 / 境界要素法 / 調和バランス法 / H行列 |
研究実績の概要 |
構造物に発生したき裂が残留応力の影響を受けて閉じてしまっている場合,通常の超音波法では入射波がそのまま透過してしまうため,見落とし,過小評価の恐れがある.非線形超音波法はこのような閉口き裂に対して有効な検査手法となることが期待されている.非線形超音波法では,大振幅の入射波を送信してき裂面の繰り返し打撃,動摩擦を誘発し,その結果生じる非線形超音波と呼ばれる高調波,分調波を受信,解析することによってき裂の検出やサイジングを行う.高精度な検査のためにはき裂面の接触を伴う散乱現象を理解する必要があり,そのために数値シミュレーションを用いたアプローチは有効であると考えられる.本研究課題では,接触を伴うき裂による散乱問題の定常解析手法である調和バランス-境界要素法の高度化を目的としている. 高度化の対象としている調和バランス-境界要素法は,時間調和な連続波入を射波として与えた場合の長時間経過後の定常状態を求める手法である.この手法の利点は,き裂面での境界条件,波動の放射条件を適切に取り扱えることであり,また,時間領域解法と比較して非線形共振現象を調べるのに適していると思われる. 令和元年度は,材料表面のき裂による波動散乱現象を調べるために,調和バランス-境界要素法の2次元半無限弾性体への拡張を行った.本解析手法によって得られた解は既往の時間領域解析結果と長時間経過後によく一致した.また,既往の時間領域解析により予想されていた分調波発生現象が本解析手法によっても再現された.これらのことから拡張した解析手法の妥当性が確認された.分調波発生現象は非線形共振の一つである分調波共振が起こることによって発生していることがわかった.さらに,その分調波共振はき裂と材料表面との相互作用による局所的な共振特性とき裂面の接触による非線形性の両方が存在することによって放射条件下においても起こりうることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画全体では,調和バランス-境界要素法の2次元半無限弾性体,3次元問題への拡張,及び計算効率向上を3年で実施することを予定している.初年度である令和元年度に調和バランス-境界要素法の2次元半無限弾性体への拡張が完了しており,概ね順調に進展していると考える.以下は,数値解析手法の拡張のために行った内容である. 調和バランス-境界要素法を2次元半無限弾性体に拡張を行う際,静弾性問題,周波数領域動弾性問題に対するGreen関数の計算が必要となる.また,き裂による散乱問題を記述する超特異境界積分方程式は積分の正則化が必要となる.周波数領域動弾性問題に対するGreen関数は無限積分による形式がよく知られているため,積分を数値的に評価することで求めた.積分の正則化について問題となる積分核の特異性は,無限領域の基本解と大部分は一致するものの,表面き裂を扱う際には鏡像特異点の正則化が必要となる.本研究では,Galerkin法を用いて境界積分方程式を離散化することによって鏡像特異性が打ち消せるような形式を用いて数値積分によって積分計算を行った.Green関数以外の部分に関しては,無限領域に対する調和バランス-境界要素法と同様に計算を行った. 最終的に解くこととなる連立非線形方程式の求解にはNumerical Continuation Methodを適用し,入力周波数,静的な場を変化させた場合の定常解を追跡した.さらに安定解析手法の半無限弾性体への拡張も行い,得られた定常解の安定性判別も行った.
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今後の研究の推進方策 |
現在,調和バランス-境界要素法の2次元半無限弾性体への拡張は完了している.今後,3次元問題への拡張を行う予定であるが,計算コスト増大が懸念される.調和バランス-境界要素法では,連立される非線形方程式の数が考慮する周波数,境界要素数それぞれに対して線形に増大する.また,帰着される連立方程式の性質が悪く,何の前処理も無しに反復法を適用することは困難である.そのため,これまでは直接法とNewton法を組み合わせて求解を行っていた.しかしながら,3次元問題への拡張に伴う計算コスト増大に耐えうる手法とするためには,何らかの効率化が必要となる.そこで,直接法を用いることができるH行列法を適用し計算コストを低減することを考える. 調和バランス-境界要素法にNewton法を用いて連立方程式を解く際に逆が必要となる係数行列は,並べ方によっては低ランク近似を保持したままLU分解を実行することが難しい場合があることは初期の検討を行ったことで経験的にわかってきた.そのため,行列の配置方法を検討する必要がある.また,考慮する周波数の増大に対しても効率化できる方法を検討する予定である.
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