研究課題/領域番号 |
19K15081
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
本間 小百合 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (60772499)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薄鋼鈑 / 木質軸組 / 制震部材 / 方杖型 / 鋼製ダンパー / 耐震改修 |
研究実績の概要 |
前年度、木造軸組架構用靭性型方杖の単調引張載荷実験を実施し、申請者らがこれまで鋼構造骨組に対して、普及鋼材のH形鋼ウェブに切り込み加工を施し、柱状の抵抗部(以後ストラットと記す)となるようにしたせん断降伏型方杖鋼材ダンパーの研究を行ってきた同ダンパーのシステムが木造軸組用に適用した試験体に対しても機能することが確認できた。しかし、これまでのH形鋼で作製された同方杖鋼材ダンパーでは観察されないストラットの面外ねじれ挙動が前年度の研究で新たに確認された。薄鋼板を用いた方杖鋼材ダンパーのねじれ挙動と、その挙動に至る変形能力を明らかにすることができれば、同ダンパーによる接合部補強は、木造軸組仕口部に適切な回転剛性と耐力を与え、同部のエネルギー吸収と変形能力を保証することが期待できる。 当該年度に実施した研究成果については、当該年度における研究目的として、まず初めに薄板によるねじれ挙動を明らかにするため、板厚をさらに薄くした場合の試験体を用いて追加の単調載荷実験を行った。また、本年度予定していた繰り返し実験については、有限要素解析から繰り返し挙動の推定を行い、この解析結果と合わせて同ダンパーの抵抗部の挙動を計測する実験計画を進め、同ダンパー単体での予備実験として繰り返し載荷実験を実施した。 次年度の研究計画である同ダンパーを木造軸組架構に取り付けた場合の架構実験に向けて、木造軸組の仕口部の挙動を考慮した解析モデルを作成し、同ダンパーと仕口部との耐力・剛性のバランス及びその効果を検討した。翌年度では、これら検討を基に、この繰り返し挙動に着目し、実験を遂行していくことを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況について、おおむね予定通りである。当該年度では、研究計画通り、木質架構用の靭性型方杖の繰り返し挙動を検討し、翌年度に向けての実験計画を立てた。木質架構用靭性型方杖の単調引張載荷実験において、これまでに提案された力学モデルと実験結果との検証を行い降伏耐力と初期剛は力学モデルからおおむね評価できることが分かった。しかし、従来の靭性型方杖には見られなかった挙動として、見かけの最大耐力後、面外ねじれ挙動を確認した。この挙動についての発生原因の究明が、ダンパー性能を評価する上で重要となるため解明する必要があり、新たな課題となった。 そのため、ねじれ挙動に関する新たな知見を得るため、板厚を極端に薄くした場合の追加の単調引張載荷実験を行った。その結果、最終載荷状況では、同様なねじれ挙動を確認されたが、板厚の違いにより、ねじれが生じるまでの変形性能に大きな違いが見られた。実験と合わせて同方杖の有限要素解析から繰り返し挙動によるねじれ挙動の推定を行い、繰り返し履歴の載荷計画及び計測位置や載荷方法等を検討し、繰り返し履歴による予備載荷実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策は、「靭性型方杖補強仕口の構造解析モデルの構築」と題して、柱と横架材(桁、梁)の仕口及び柱と土台の仕口に対する力学的性能を検証するために、同仕口の繰り返し実験を行い、方杖有無による挙動の差から方杖設置の効果を検証する。この研究に対する課題は、半剛接合となる仕口部の回転変形を活用して制震機能を持たせることである。 同課題において、木造軸組における仕口の大きな変形能力に着目して、仕口周りにエネルギーを吸収する制振要素を取り付けることで制振効果が期待できないかを検討する。靱性型方杖部材には、制振要素となる抵抗部(ストラット)が含まれている。木造軸組構法の仕口は、木材どうしの摩擦やめり込み強度に依存した「ほぞ」や「貫」が用いられるが、これらの仕口は剛接とはならず半剛接となる。そこで、地震動による水平力を受けた際の木造軸組における仕口の回転変形を活用できないかという「問い」が生まれた。この課題に対して、当該年度において、仕口部のめり込み等をモデル化した木造軸組の解析を先行して行っている。今後の推進方策として、当初の研究計画通り靭性型方杖部材を木造軸組に組み込んだ場合の実験を行い、木造軸組における同方杖の効果を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた状況については、翌年度に大掛かりな実験治具(試験体の他、載荷フレーム、オイルジャッキ、補剛材、ピン、ひずみゲージ等)が必要であったため、翌年度予算と調整し、力学モデルや解析で試験体形状を極端に厳選して単調引張実験を行ったためである。 当該年度に調整した助成金と合わせて、翌年度では木造軸組の繰り返し載荷装置を用いて載荷実験を行う予定である。
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