研究課題/領域番号 |
19K15084
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大坪 正英 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (80804103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地盤工学 / 波動伝播 / 地盤剛性 / 室内試験 / 個別要素法 / 模型実験 / 地盤陥没 / 内部侵食 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、地盤性能設計の普及に伴い需要が高まる速度検層における弾性波計測結果の新たな活用手法を提案することである。研究初年度では次の具体的な課題に対し、基礎的実験および個別要素法(DEM)数値解析を実施した。
①地盤降伏過程の評価:粒子形状、大きさの異なる砂質土を用いて三軸圧縮試験を実施した。載荷中の供試体に対する載荷軸方向の弾性波計測を行った結果、載荷応力の増加に伴い圧縮(P)波速度(Vp)は増大する結果を得た。一方、せん断(S)波速度(Vs)は初期増加の後に徐々に逓減する結果を得た。実験に用いたすべての材料に共通する挙動であったため、粒状体である地盤材料の特徴であると考えられる。VpとVsの変化の違いは地盤材料の骨格変化に起因すると推測し、このメカニズム解明するためにDEMを用いた数値解析を実施した。 ②道路陥没危険度評価:地中空洞を有する模型地盤を作製し、地表面から地中に伝播する弾性波の計測を試みた。空洞の存在による弾性波速度の低減および高周波成分の減衰が確認された。土粒子間の表面張力による付着力を考慮したDEM解析を行った結果、P波は地盤内に形成されたアーチに沿って伝播するのに対し、S波は地盤のゆるみに伴い減速することが明らかとなった。今後は水平方向の弾性波伝播を理解するとこで弾性波トモグラフィーに基づく陥没危険度評価を行う予定である。 ③浸透による細粒分流出の検知:今年度は浸透の影響を考慮せずに、細粒分含有率を変化させたギャップグレード材料用いた基礎的な実験を行った。土粒子の形状や大きさにもよるが、細粒分含有率が25%-35%の間で弾性波速度および周波数特性が大きく変化し、徐々に細粒分が骨格構造に寄与することを実験および数値解析で明らかにした。今後は改良した三軸試験装置を用いて、浸透圧による細粒分流出を再現した供試体に対する弾性波計測を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①地盤降伏過程の評価のために、球形であるガラスビーズを用いた実験、その表面に粗度を持たせたガラスビーズ、および3種類の砂材料を用いた実験を予定通り実施した。三軸圧縮試験および弾性波計測を実施した結果、地盤材料の粒子形状と地盤の巨視的な降伏挙動に密接な関係があることを明らかにした。個別要素法(DEM)解析を用いて同結果を再現することができ、地盤供試体に対して連続的に圧縮波速度(Vp)およびせん断波速度(Vs)を計測することで、地盤の降伏過程の進展を評価することができることを示した。 ②道路陥没危険度評価のために、模型実験およびそのDEM解析を実施した。実験では地中内に空洞を発生させ、その近傍を伝播した弾性波の性状を分析した。実験では地盤の表面あるいは地盤模型の底面における計測に限られたが、空洞の生成に伴う弾性波速度の低減、高周波数成分の減衰が確認された。数値解析では、土粒子間の表面張力による付着力を考慮したDEM解析手法を開発し本研究に適用した。空洞周りのアーチングに沿うP波の伝播の様子、および地盤の緩みに伴うS波速度の低減を定量的に評価した。 ③浸透による細粒分流出の検知技術の確立のために、細粒分含有率を変化させた地盤材料に対して基礎的な実験を行った。細粒分含有率が25%-35%において弾性波速度および周波数特性が大きく変化することを確認した。DEM解析の結果、徐々に細粒分が骨格構造に寄与することで伝播する弾性波の高周波成分が大きく増幅することが理解された。
また、初年度の研究成果に基づき4編の論文を国際学術誌に投稿した(現在3編査読中、1編掲載済)。複数の国際学会における研究成果の発表を精力的に行ったため、研究成果の国際的な発信という目的も概ね達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究は予定通り、あるいはそれ以上の成果を得ることができた。2年目以降も引き続き室内実験および個別要素法(DEM)解析を実施する予定である。
①地盤降伏過程の評価:様々な地盤材料による実験ケースを追加することで、今回得られた知見の一般性およびその適用範囲について議論をする予定である。特に粒子形状と表面摩擦の各々の影響を理解するために、扁平形状のガラスビーズなども比較対象に用いる予定である。また、初年度におけるDEM解析では球形を用いた解析のみ実施してきたため、今後は実際の砂形状に近い粒子形状をモデル化し、地盤骨格内部で起こる現象の理解を深める予定である。 ②道路陥没危険度評価:2年目はDEM解析を主な研究手法として、空洞周辺を伝播する弾性波特性の理解を目指す予定である。具体的には、地盤鉛直方向のみならず水平方向の伝播特性を理解するとこで弾性波トモグラフィーに基づく陥没危険度評価手法の構築を目指し、健全な地盤と陥没リスクがある地盤を区別するための指標を提案することを目標とする。 ③浸透による細粒分流出の検知:既存の三軸試験装置をさらに改良することで、浸透圧による細粒分流出過程をを再現した供試体を準備し、その供試体に対する弾性波計測を実施する予定である。細粒分流出過程をDEM解析で再現することは現時点では難しいため、2年目は室内試験による研究を主体として進める予定である。併せて、初年度の研究成果を取りまとめて学術雑誌に投稿することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に海外出張を予定していたが、COVID-19感染拡大の影響により延期となったため、2020年度中の実施を予定している。
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備考 |
大坪 正英, デュッタ トロイー タヌ, 桑野 玲子,ギャップグレード粒状体の骨格構造と周波数特性に関する研究,生産研究 71(6) 1047 - 1050 2019年11月 大坪 正英, アリ ウマイル, 桑野 玲子, 個別要素法による地中空洞安定解析の試み, 生産研究 71(6) 1051 - 1054 2019年11月
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