研究課題/領域番号 |
19K15086
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
森河 由紀弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20710239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 液状化対策 / 地中連続壁 / 格子状地盤改良 / 浮き型格子状地盤改良 / 排水工法 / 既設構造物 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,既設構造物にも適用可能な経済的で効果的な液状化対策として,浮き型地中連続壁と安価な排水工法との「ハイブリッド型液状化対策」を開発することである.従来の液状化対策工法は液状化を完全に防止することを目的とするため大型の施工機が必要となり,高価な上に既設構造物には適用できないものが多い.そこで,本研究では安価な排水工法により液状化地盤の流動性を低下させ,そこに液状化の発生を許容することで小規模化し経済性を向上させた浮き型格子状地盤改良を用いて効率的に側方流動を抑制することで,既設構造物でも経済的に液状化被害を低減できる工法を開発する.令和元年度においては下記の検討を行った. 【検討①】構造物と液状化地盤との相互作用の解明:本検討では,平面ひずみ条件を満たした二次元の振動台実験を行い,液状化地盤の変形挙動を正しく理解し,液状化によって構造物が沈下する際に発生する側方流動の位置や効果的な対策範囲を検討した.検討の結果,液状化によって構造物が沈下する際には,構造物の直下付近の地盤では鉛直変位が卓越するものの,構造物の外側では基礎幅の約1.4 倍の範囲まで大きな側方流動が発生し,その側方流動が発生する領域は深度が深くなるにつれて「ハの字型」に分布することが分かった. 【検討②】地中連続壁および排水工法の最適化と対策効果の検証:本検討では,一般的な地盤改良を想定した不透水性の改良体と排水性の高い改良体を用いて二次元振動台実験を行った.検討の結果,液状化に伴う構造物の沈下被害を抑制するためには,浮き型格子状地盤改良の格子間隔は基礎幅の約1.2倍以内,改良深度は基礎幅の約2.0倍以上必要であることが分かった.また,排水性改良体を用いることで液状化対策効果が向上することも分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,安価な排水工法により液状化地盤の流動性を低下させ,さらに液状化の発生を許容することで小規模化し経済性を向上させた浮き型格子状地盤改良を用いて効率的に側方流動を抑制することで,既設構造物でも経済的に液状化被害を低減できる「ハイブリッド型液状化対策」を開発することである.そのため,本研究では平面ひずみ条件を満たした二次元振動台実験を行い,構造物,液状化地盤,対策工の相互作用や現象を正しく理解した上で,浮き型格子状地盤改良の最適な改良間隔や改良深度を検討してきた. 令和元年度に行った検討では,液状化によって構造物が沈下する際に発生する側方流動の範囲(基礎幅の約1.4 倍の範囲で,振動が深くなるほど広がる傾向にある)や効果的な対策範囲(格子間隔は基礎幅の約1.2倍以内,改良深度は基礎幅の約2.0倍以上)が明らかとなり,非線形有限要素法による解析結果においても概ね同様の効果が得られている.さらに,従来の地盤改良のような不透水性の改良体のみならず,高い排水性を有する改良体を用いた二次元振動台実験も行っており,排水性の高い改良体を用いることで,格子間隔が狭く,改良深度が高いケースほど,改良体の排水性に伴う構造物の沈下抑制効果が増大することが明らかとなった. しかし,新たに行った構造物の傾斜被害に着目した検討においては,液状化によって構造物が傾斜する場合の地盤内変位は構造物が沈下する場合に比べて非常に小さく,液状化地盤の側方流動を抑制することを目的とした従来の「不透水性の改良体を用いた浮き型格子状地盤改良」では,構造物の傾斜被害抑制効果は沈下被害抑制効果に比べて小さく,傾斜被害を大きく抑制するためには本研究が強く主張している排水工法を併用することが非常に効果的であることも明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの液状化対策は構造物の沈下抑制効果が得られる対策であれば,傾斜被害抑制効果もそれなりに得られると考えられていた.しかし,本研究によって構造物が沈下する場合と傾斜する場合とでは,構造物と液状化地盤との相互作用は大きく異なることが明らかとなり,液状化地盤の側方流動を抑制するような液状化対策では構造物の傾斜被害を大きく抑制できないことも明らかとなった.そこで,今後は構造物の傾斜被害に焦点を絞り,偏心荷重が作用する模型構造物を用いた振動台実験等を行い,構造物が傾斜する場合における液状化地盤との相互作用についてさらに詳細な検討を行う.また,高い排水性を有する浮き型格子状地盤改良(本研究が提案するハイブリッド型液状化対策)による傾斜被害の抑制効果,効果的な対策範囲などについて,二次元振動台実験や三次元振動台実験,非線形有限要素解析などにより詳細な検討を行う.そして,それらをまとめることで設計に反映できるような格子間隔,改良深度,対策効果の関係性について明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は既設構造物を対象としたハイブリッド型液状化対策の開発であり,まずは構造物の沈下抑制効果について様々な検討を行ってきた.本研究によって,構造物が沈下するときの液状化地盤の挙動やそれに基づく効果的な改良範囲などが明らかとなった.また,これまで構造物の沈下被害に対して効果的な液状化対策は傾斜被害に対しても効果的だと考えられてきた.しかしながら,本研究によって液状化に伴い構造物が傾斜する場合については構造物が沈下する場合と比べて,液状化地盤と構造物との相互作用関係が大きく異なり,構造物の傾斜時には液状化地盤がほとんど側方流動を引き起こさないことが分かった.そのため,液状化地盤の側方流動を抑制することで構造物の沈下被害を抑制する従来の「不透水性改良体を用いた浮き型格子状地盤改良」では構造物の傾斜被害を大きく抑制することが困難であるとわかった.そのため,本研究では液状化によって構造物が沈下するときの検討内容と同様に,構造物が傾斜するときの液状化地盤内の挙動を正確に把握するところから再度始め,現在も効果的な対策方法や対策範囲について検討を行っている.ここで,構造物が傾斜する場合の検討では構造物が沈下するときに用いていた試験器具や模型などを有効利用し,その分の費用を次年度において排水工法を併用した対策方法や対策範囲の検討に使用する予定である.
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