研究課題
本研究の目的は,鋼管矢板基礎の水平抵抗に及ぼす継手の影響を遠心模型実験により把握し,それを適切に表現可能なシミュレーターを開発することである.そこで本研究では,小型の鋼管矢板基礎模型を作製し,1g場で継手の各種要素試験を実施した上で,遠心場で鋼管矢板基礎全体の水平載荷試験を実施する.さらに,遠心実験の再現解析を通じて,同構造の設計に用いるシミュレーターを開発する.2019年度は特に下記の2点について研究を行った.1. 遠心模型実験で使用する小型模型の継手試験:過去に申請者らが行った同構造物に対する研究では,鋼管矢板基礎特有の複雑な継手形状は模擬していたものの,継手の各種剛性については実物よりも大きくなるという課題があった.そこで,継手の幾何学的な特徴は残しつつ,継手の各種剛性が実際の挙動を表現するような模型を新たに作製した.今後,新たに作製した継手モデルを用いて各種力学試験を実施した後,遠心模型実験を実施する予定である.2. 同構造の水平挙動を再現するシミュレーターの開発:過去に鋼管矢板基礎全体を対象として申請者らが実施した気中(1g場)の載荷実験および遠心場での載荷実験を対象に,有限要素法による再現解析を実施し,そのモデル化について検証を行った.有限要素解析では地盤をソリッド要素とした精緻なモデルに加えて,設計での使用を想定して地盤をバネ要素とした簡易なモデルについても検討した.その結果,特に精緻なモデルにおいて,各種継手剛性や地盤と杭の境界部のモデル化について手法を確立した.両モデルの比較を通じて,今後簡易モデルで設計を行う際に必要となる解析パラメータ―についても確認した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,小型の鋼管矢板基礎模型を作製し,1g場で継手の各種要素試験を実施した上で,遠心場で鋼管矢板基礎全体の水平載荷試験を実施する.さらに,遠心実験の再現解析を通じて,同構造の設計に用いるシミュレーターを開発する.2019年度は,「1. 遠心模型実験で使用する小型模型の継手試験」と「2. 同構造の水平挙動を再現するシミュレーターの開発」について研究を行った.小型模型の継手試験については,当初,各種力学試験を完了する計画であったが,模型の作製に時間を要し,年度内にすべての実験が終了しなかった.一方でシミュレーターの開発については,過去の実験との比較を通じて当初の想定以上の成果を上げた.したがって総合的には,研究は概ね順調に進捗していると考えられる.
1. 継手の各種力学挙動が鋼管矢板基礎全体の水平抵抗に与える影響の把握1-1. 1g場における継手の要素試験(圧縮・引張り,鉛直・水平せん断,ねじれ):2019年度に作製した継手モデルを用いて,圧縮・引張り,鉛直・水平せん断,ねじれの各方向に対して,継手の要素試験を実施する.継手の要素試験には,一軸圧縮試験機を使用し,それぞれの試験に対して専用の冶具を作製する.圧縮および引張り試験と異なり,せん断試験とねじり試験については継手軸方向の拘束状態により挙動が大きく異なることが予想される.そこで,これらの試験については継手軸方向の拘束圧を変化させて実験を行う.1-2. 遠心場における鋼管矢板基礎全体の水平載荷試験:実験ケースは,継手の挙動を段階的に把握していくことと併せて,事後に実施する数値解析モデルの構築に寄与するように設定する. はじめに,最も基本となるケースとして,鋼管1本の水平載荷試験を実施する.つぎに,継手を1つ有するモデルとして1×2(直列),2×1(並列)のケースを行う.継手の圧縮・引張り,鉛直せん断は直列方向,継手の水平せん断とねじれは並列方向のケースにおいて顕著であると考えられることから,その後は直列,並列ともに最大で鋼管5本(継手4か所)までケースを拡大する.直列および並列の実験で基本的な挙動を確認した後,3×3,5×5の矩形基礎について実験を行う.現在の設計では,安全のため内部に存在する土(以後,内部土)の影響を考慮していないが,内部土により杭の水平抵抗が増加していることが考えられるため,5×5については内部土の有無についてもパラメータとする.2. 鋼管矢板基礎の水平抵抗を評価可能なシミュレーターの開発2019年度に検討した解析モデルを用いて,遠心模型実験の再現解析を実施する.その際は,精緻なモデルと簡易なモデルの2種類で検討を行う.
鋼管矢板基礎の水平抵抗に及ぼす継手の影響を遠心模型実験により把握するにあたり,当初計画から高精度化を図っている.2019年度は,「遠心模型実験で使用する小型模型の継手試験」に着手したが,模型の材料の選定や作製に時間を要し,年度内にすべての実験が終了しなかった.それに伴い,遠心模型実験の費用を次年に使用することとした.次年度は遠心模型実験において,鋼管矢板基礎の水平試験を実施する計画である.まず,透明土を用いた実験で継手のずれについて視覚的に確認する.その後,通常の地盤を用いた実験を実施し,基礎全体の挙動を確認する.実験の高度化に向け,広角高解像度カメラの購入や既存の載荷装置の改良を行う予定である.さらに,実験における境界条件を明確にし,数値解析モデル構築の材料とするため,圧力計,レーザー式変位計を計上する.実験に用いるこれらの個数を増やすことにより,杭の水平載荷試験における地盤の影響範囲や載荷速度の妥当性を確認する.
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