研究課題/領域番号 |
19K15104
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高畠 知行 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (30823380)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 地すべり津波 / 津波 / 地すべり / 簡易予測式 / 避難意識 / パル津波 |
研究実績の概要 |
2018年インドネシア・パルを襲った津波は,複数の地すべりによって引き起こされた.本研究は,同災害による甚大な被害を背景に,以下の3つを目的としている.すなわち,(1)複数の地すべりによる津波の増幅機構の解明,(2)地すべり津波の予測手法の開発,(3)よりよい避難方法の考案である. 2019年度は,2次元水槽を用いた地すべり津波の実験を行った.様々な研究チームが行った2018年パル津波の現地調査結果を整理したところ,同津波は海底地すべりだけでなく,半没水や陸上地すべりといった異なる形態の地すべりによっても生成されていたことがわかった.そこで,海底地すべりだけでなく,半没水や陸上地すべりの形態を対象とした津波についても対象に,網羅的な実験を行った.その結果,地すべりにより発生する津波の高さを簡易的に予測する実験式を構築することに成功した.また,計画通り,2次元水槽の両端から地すべり津波を生成させ,津波の重合作用について分析した.その結果,地すべりにより生成される津波は非線形波に分類され,そのため単純な水位の重ね合わせだけでは津波の高さを再現できないことが明らかになった. 上記に加えて,2018年パル津波の避難者を対象とした質問紙調査の結果についても統計解析を行った.その結果,同津波災害においては,多くの避難者が周囲の人々が逃げていたことで,自身も避難を開始していたことが明らかになった.この行動の背景には,「地震が起こると津波が来るかもしれない」という人々の高い津波防災意識があることが,統計解析結果より示唆された.質問紙調査の結果は,査読付き国際学術誌に投稿し,受理された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は,海底地すべりのみを対象とした実験・数値解析を行うことを想定していたが,2018年パル津波の現地調査結果を再度整理すると,半没水や陸上地すべり津波についても対象とするべきだと判断した.そのため,3つの異なる形態の地すべりを対象に2次元水槽を用いて実験を行った.地すべり斜面や地すべりモデルを3つの形態全てで同一のものを使用することで,研究に要する時間・予算が増大しないように留意した.結果的に,全ての形態の地すべり津波について実験を完了することができ,かつそれぞれの形態により生成された津波の高さを予測する簡易式を構築することができた.これは,非常に大きな成果だと考えている.また,生成された波の特性(非線形性)を分析することで,複数の地すべり津波が発生した場合の津波の増幅機構についても理解を深めることができた.数値解析についても,3次元数値流体解析ツールOpenFOAMを応用し,計画通りに着手できた.加えて,2018年パル津波での被災者を対象とした津波避難の質問紙調査結果を分析したことで,地すべり津波からの避難を行う上で重要となる事項について把握することができた.これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,2020年度は3次元平面水槽を対象とした地すべり津波実験を実施する.これを行うことにより,地すべり津波の生成・伝播機構を平面的に解明することを目指す.2019年度と同様に,実験では海底地すべりだけでなく,陸上,半没水を含む3つの形態の地すべり津波を対象に実験を行う.そして,実験結果を元に,2019年度に構築した津波高を予測する簡易式を高度化するとともに,複数の地すべりが重合した場合の水位変化について分析する.数値解析についても,3次元平面水槽の実験結果を再現できるように実施する.また,地すべり津波からの避難に適用するため,保有している津波避難シミュレーションモデルについても,様々な津波来襲予想地域に適用しつつ,高度化を進めていく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は地すべり津波を生成する実験装置の製作に大きな金額を要すると予想していた.しかし,実験装置の構成や使用する材料を工夫し,より安価に(しかし十分な精度で)地すべり津波を生成する装置の作成に成功したことが大きな理由である.また,実験の効率化を図ることで,研究補助者の協力も当初より少なく実験を終えることができた.一方で,本年度に使用した実験装置は,比較的小規模な2次元水槽での使用を想定して製作したものである.そのため,次年度に予定しているより大きな3次元平面水槽での実験には使用することができない.規模が大きい場合,今度は逆に想定以上に費用がかかる可能性があることから,次年度の実験を確実に行うために繰り越した.そのため,次年度使用額の大半は,実験装置の製作と研究補助者への謝金に使用する予定である.
|