2018年インドネシア・パルを襲った津波は,複数の地すべりによって引き起こされた.同災害による甚大な被害を背景に,本研究では,(1)複数の地すべりによる津波の増幅機構の解明,(2)地すべり津波の予測手法の開発,(3)よりよい避難方法の考案の3つを研究目的とした.以下に研究期間全体を通じて得られた成果を,それぞれについて示す. (1)については,2次元水槽,3次元平面水槽を用いた実験により解明することを目指した.ただし,地すべり津波の特性については,研究開始当初の想定以上に明らかになっていないことが多いと判明したため,まずは3つの異なる形態の地すべり(陸上・半没水・海底地すべり)を対象に単独での地すべり津波の実験を行った.その結果,それぞれの形態の地すべり津波の特性を明らかにした.また,地すべり津波を複数生成した実験結果から,地すべり津波が有する非線形性により,それぞれの津波の単純な重ね合わせでは最大水位が再現できないことがわかった. (2)については,まず実験結果を基にして,津波高の簡易予測手法の構築を行った.結果として,陸上・半没水・海底の3つの地すべり形態それぞれについて簡易予測式を構築することができた.また,2018年パル津波を対象に,数値シミュレーションモデルを用いた再現解析を行い,複数地点で発生した地すべり津波を考慮することで,パル湾で目撃された津波高を概ね予測できることを確認した. (3)については,現地調査や避難シミュレーションの実施を通じて取り組んだ.2018年パル津波の場合,津波来襲までの時間が短かったため,迅速な避難行動を取ったとしても被害を完全になくすことは難しいことがわかった.地すべり津波は陸上近くで発生し,来襲時間が短くなる傾向があるため,避難ビルの増設など,地すべり津波に対する避難方策を改めて考える必要があることが示唆された.
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