研究課題/領域番号 |
19K15105
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山野井 一輝 京都大学, 防災研究所, 助教 (30806708)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 土石流 / 洪水氾濫 / 予測シミュレーション / HPC / 降雨流出 / 順序ロジスティック回帰 |
研究実績の概要 |
本研究は,土砂災害と水災害の中間に分類できるような,土砂が河床や河道周辺地形を動的に変化させ甚大な洪水氾濫が発生する現象を対象に,後追いでない予測シミュレーションの実現と,発生条件の推定を目指すものである.2019年度は3年間の計画の準備段階であり,①研究に利用するシミュレーションプログラムの開発と,②実災害を対象とした土砂生産予測手法の確立,の二つを推進した. ①については,従来の申請者らの水・土砂の流出・氾濫シミュレーションプログラムを,土石流などの高濃度土砂輸送形態を考慮可能とするために,高橋らの土石流モデルを取り込んだ.これにより,斜面崩壊などの土砂生産を与条件として,土石流から掃流状集合流,および掃流状集合流動という異なる形態での土砂の移動を同時に解析可能とした.また,本シミュレーションはOpenMP-MPIのHybrid並列化を施してあり,高いスケーラビリティを有し,数km2の小領域から計算資源次第で数千km2程度の大領域まで計算が可能である.また同時に異なる条件での計算を多数同時に解析することも可能である.また九州北部豪雨を対象にした予測シミュレーションに関し,学術誌へ投稿した. ②については,平成30年7月豪雨で多数発生した広島県下の花崗岩領域における土砂災害データと降雨観測データを活用し,土砂の生産規模を予測する確率モデルを順序ロジスティック回帰分析によって構築した.また本年は本予測モデルと簡易な土石流輸送モデルにより,事前情報のみからの堆積域予測を試行した.今後,この予測モデルを①のシミュレーション上で利用し,より完全な予測シミュレーションの構築を図る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は3年間の計画のうち1年目にあたり,①水・土砂の流出・氾濫シミュレーションプログラムの高度化(高濃度土砂移動形態の導入)と,②土砂生産量の空間分布予測手法の構築を行う予定であったが,いずれもおおむね予定通り進展している. ①については,従来の申請者らの水・土砂の流出・氾濫シミュレーションプログラムを,土石流などの高濃度土砂輸送形態を考慮可能とするために,高橋らの土石流モデルを取り込んだ.これにより,斜面崩壊などの土砂生産を与条件として,土石流から掃流状集合流,および掃流状集合流動という異なる形態での土砂の移動を同時に解析可能とする改良を行った.また,スーパーコンピュータ上での利用を可能にするため,本シミュレーションはOpenMP-MPIのHybrid並列化を施した.これにより,大規模な計算資源を利用することで,例えば対象地域での数100ケースを超える条件での同時解析や,数千km2以上の広大な領域での高解像度シミュレーションを可能とした. ②については,平成30年7月豪雨で多数発生した土砂災害データと降雨観測データを活用し,土砂の生産規模を予測する確率モデルを順序ロジスティック回帰分析によって構築した.これにより,広島県下の花崗岩領域を対象として,降雨データと地形データから,対象場で発生しうる土砂生産の規模別の発生確率を,約250mの解像度で予測した. さらに,①で構築したシミュレーションプログラムにより,ランダムに生成した斜面崩壊(土砂生産)を多数入力条件としたシミュレーションを行なった.これにより,流域地形上における予測される被害の不確実性は,下流に行くほど低減することを示した.この結果は,下流での被害予測を目的にするとき,ある程度の精度で土砂生産が予測できれば十分であることを示しており,今後②の統計的な予測と①のシミュレーションを統合していく上で重要な知見が得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果により,本研究で目指す予測シミュレーションの基礎的なフレームワークが構築された.ただし現状では,土石流・掃流状集合流の高濃度流のシミュレーションが混合粒径のモデルになっていないため,下流の河川部との連続的な扱いには課題がある.まずこの解決が必要である. また,2019年度に構築した土砂生産量予測モデルをシミュレーションの入力条件として利用する予定であるが,本予測で対象とした “土砂生産量”は,土石流による侵食量も含んだ値であるため, そのまま入力条件として利用することができない.例えば一部を河床の侵食可能な土砂量として与えるなど,整合性のとれた扱い方を検討する必要がある.さらに,土石流の発生タイミングは得られないため,発生タイミングが予測結果に与える不確実性についても定量化が求められる. 以上の問題を解決した上で,シナリオベース予測シミュレーションをより広い領域で実施し,本研究が対象とする土砂を含む洪水氾濫の発生リスクの高いエリアの抽出に取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に参加予定で会った国際会議(神戸市での開催)が,新型コロナウイルスの影響により2020年12月に延期となったため,これに伴う参加費・旅費が支出できなくなったため,次年度使用額が生じた.これについては,2020年度の経費で支出する見込みである.
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