本研究は,多数の土石流などによる土砂生産が生じる場での洪水氾濫災害の予測を行うためのシミュレーション手法とそれを用いた予測の方法論開発を行うものである.4年間の研究期間内で,①降雨流出と土砂移動の統合シミュレーション,②始点位置を入力とした土石流の流下シミュレーション,③地形条件と降雨条件を考慮した土石流発生位置推定方法構築,④地形と降雨条件を考慮した土砂生産量の推定方法構築を実施した. 4年目である2023年度はこのうち,③に基づいて生成した多パターンの土石流始点データを用いて②のシミュレーションをアンサンブル実行することで,被害域を確率的に推定する方法論を構築した.平成30年7月豪雨で被災した広島県坂町総頭川における適用の結果,谷底部で実際に被害発生した領域において,高い被災確率が予測されただけでなく,周辺部の被害確率にも大小(濃淡)が生じる結果となった.本技術を用いることで,降雨を反映したリアルタイムな被災確率を,連続的な空間分布込みで推定することが可能となったといえる.これを用いれば,現状の土石流ハザードマップを大幅に改善できると期待できる. 一方で,本研究で構築した各シミュレーション方法は,土砂の粒径や土層の厚さなど,網羅的観測が容易でない物理パラメータを入力に用いる必要がある.上記を社会実装する上ではこの物理パラメータを予測する必要がある.災害時の地形変化等,利用可能な観測データを用いて,これを推定することが必要となる.これを次年度以降の課題として,継続して研究に取り組む予定である.
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