地震時の構造物の変形・破壊過程を再現するには,建築構造物全体をシェル・ソリッド要素で詳細にモデル化した,有限要素弾塑性解析が有用である.このような解析は膨大な自由度数を有するため,実用的な時間内で解析を実行するには,計算負荷の低減が重要である.また,構造物の塑性変形挙動を正確に再現するには多軸応力状態における硬化現象を再現可能な材料構成則が必要である.そこで,本申請では,計算負荷が小さく,かつ,多軸応力下での硬化現象を再現可能な材料構成則の開発を目的とする.その中で,ニューラルネットワーク(NN)の計算効率および回帰性能に着目し,新たな応力計算手法の開発を行った.申請当初の予定では,全ひずみ,過去の内部変数を入力値とし,応力,過去の内部変数を出力値としたリカレントNNを構築し,計算を行う予定であった.しかし,検討を進める上で,リカレントNNでは,膨大な訓練データが必要であること,また,学習範囲外では学習済みNNの精度が著しく低下することが明らかとなった.そこで,リターンマッピングアルゴリズムの計算において,計算負荷が大きい塑性修正子のみを順伝播型ニューラルネットワークで援用する手法を開発した.なお,AbaqusやANSYS等の汎用有限要素法ソフトに実装され,構造解析にも実績のある非線形移動硬化則を用いて,訓練データを実施した.まずは,一軸応力場において提案手法を適用し,計算時間が従来手法に比べて,約70%低減されることを確認した.また,多軸応力場に提案手法を拡張し,従来手法の計算時間に比べて,約80%低減されることを確認した.さらに,テストデータを用いて,学習範囲外における提案手法の精度を検討したところ,テストデータが訓練データの最大入力値の2倍以上となる場合でも,その誤差は小さく,提案手法が高い汎化性能を有していることを確認した.
|