本年度は,当初予定していた研究計画に研究を行う上で生じた課題に応じて必要な修正を加え,学校体育館等に多用されるラチスシェル屋根を対象とした地震応答制御の検証と,超弾性合金を用いたブレース材を対象に繰返し圧縮実験を行った。 先ず,一般的なラチスシェル屋根の基本形状であるアーチ構造物を対象に地震時における形状記憶合金による制振効果を分析した。ここでは,制振効果の高い形状記憶合金の諸元等を明らかにするために,複数のモデルに対して時刻歴応答解析を行った。その結果,アーチ構造物を対象に適切なサイズの超弾性合金をブレース材として用いることで,地震時における鉛直方向の応答変位と軸力を低減できることを明らかにした。 次に,超弾性合金を用いた数種類のブレース材を対象に繰返し圧縮実験を行い,残留変形の抑制に対する効果の検証等を行った。ここでは,超弾性合金を用いない試験体との比較や,超弾性合金と鋼の割合を変化させた試験体の比較を行うことで,それらの特徴を明らかにした。その結果,超弾性合金をブレース材として用いた際に,座屈に伴う残留変形を抑制できることを実証した。また,超弾性合金をブレース材として用いた際の,圧縮時の座屈に伴う変形量やひずみ量,またエネルギー吸収能力を評価する方法を提案した。 これらの結果,アーチ構造物を対象に超弾性合金をブレース材として用いることで,地震時の応答量を低減できるだけでなく,地震時に生じるブレース材の座屈による残留変形を抑制できることを明らかとし,本研究により,アーチ構造物の安全性向上と耐力低下抑制を同時に実現できる方法を提案することができた。
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