本研究では、鋼繊維補強セメント系複合材料(SFRCC)に導電経路が形成される繊維混入率を、数値計算によるシミュレーションおよび実験の両方から検討し、繊維混入率とひび割れ幅を主な実験因子とした電気抵抗を測定し、健全時との比較から構造物の劣化度診断に応用することを最終的な目的としている。これまでに得られた知見より、数値計算によって得られたシミュレーション結果から、SFRCC内部で導電経路が急速に形成されるパーコレーション閾値は混入する繊維が太径繊維(全長13mm、直径0.16mm)のみ場合、1.7%程度であることが分かっている。また、ひび割れ幅に対する電気抵抗値の応答については、繊維寸法が強く依存することがわかっており、従来使用していた太径繊維に加えて、全長2.5mm、直径0.05mmの細径繊維を用いたハイブリッドSFRCCによって、令和2年~3年度前半にかけて電気抵抗値の応答改善の検討を行ってきた。パーコレーション閾値(1.7%)を十分に上回る体積繊維混入率であれば導電性を確保できるものの、ひび割れ幅が3~4mm以上に拡大しなければ、顕著な電気抵抗値の変化が確認できず、ひび割れ幅をキーとした構造部材の劣化度診断には実用性に欠けることが課題であった。令和3年度の後半にかけて、ひび割れ幅に対する電気抵抗値の応答をより敏感にするべく、シミュレーションにより導電経路の形成において細径繊維がより支配的になるような、混入繊維2種の場合のパーコレーション閾値を検討し、太径繊維1.2%、細径繊維0.2%であることがわかった。ひび割れに対して早期に導電経路が破綻するように、パーコレーション閾値による一軸引張試験を実施したところ、ひび割れ幅が1~2mm程度で電気抵抗値が顕著に上昇し、従来よりも大きく改善することができた。しかしながら、実験結果の再現性が低く、更なる検討が必要であることがわかった。
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