研究課題/領域番号 |
19K15154
|
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
尾方 壮行 東京都立大学, 都市環境学部, 助教 (90778002)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 建築環境 / 感染対策 / 飛沫 / 飛沫核 / エアロゾル粒子 / 感染リスク評価 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の項目に関して研究を行った。 1) 呼吸器から発生するエアロゾル粒子への曝露量に与える人と人の間の物理的な距離およびマスク着用の影響を調査するため、飛沫を含むヒトの咳を模擬することができる模擬咳発生装置を用いた実験を実施した。模擬咳発生装置により発生させたエアロゾル粒子は0.3 μm、0.5 μm、1.0 μm、3.0 μm、5.0 μm、10.0 μmの6粒径区分で測定可能なパーティクルカウンターを用いて測定した。結果として、マスクを着用していない時には2.0 mの距離を取ることにより粒径1.0 μm以上の咳飛沫・飛沫核への曝露量が大幅に低下することが示された。また、マスクを着用することで粒径1.0 μm以上の粒子への曝露量が有効に抑制された。しかしながら、マスク着用時にも、特に粒径1.0 μm未満の粒子はマスクと顔面の空隙から吹き出される空気とともに室内空気中へ漏洩することが示された。物理的な距離の確保やマスク着用を行っても1.0 μm以下の粒子を高濃度に含む雰囲気に曝露される恐れがあるため、エアロゾル粒子が多く発生するような場合には風下とならない方向に2 m以上の物理的な距離をとりながら換気量を増大するように努めるほか、発生源が予め予測できるならば、発生源となる者と他の者の過ごす空間を分けて発生源近くに排気口を設けるなどの工夫によって、他の者を感染性エアロゾル粒子に曝露させずに直ちに除去する工夫を行うことが対策として考えられる。 2) 感染リスク評価シミュレーターについて、継続して文献調査およびデータ処理を行い、入力条件となるデータベースを拡充した。 2)室内環境での感染対策手法をエアロゾル粒子への曝露様式に基づいて整理した。感染リスク評価時の条件について、新型コロナウイルス感染症対策として実施されている感染対策をまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呼吸器から発生するエアロゾル粒子への曝露量に与える人と人の間の物理的な距離およびマスク着用の影響を把握するための模擬咳発生装置を用いた実験を実施した。また、新型コロナウイルスを主な対象として文献調査を継続的に行っており、リスク評価時の入力データとなるデータベースを拡充しており、順調に研究が進んでいる。新型コロナウイルス感染症対策に関しても、最新の研究報告および本研究を通して得られた知見を整理し、室内環境における感染対策としての換気に関する情報を論文および学会ホームページを通じて継続的に発信しており、研究成果の社会還元活動についても精力的に取り組みが行えている。
|
今後の研究の推進方策 |
日本でも2021年2月から医療従事者、4月から高齢者をはじめとして新型コロナウイルスに対するワクチン接種が始まったが、今後さらなる流行波が生じる可能性はあり、流行が収束するまでは引き続き感染対策を実施する必要がある。流行収束のためには社会経済に大きな負担を強いる短期的な対策によって感染者数のピークを下げるだけではなく、中長期的に持続可能なエビデンスに基づいた対策を行い、社会機能を維持しながら次なる流行の波を引き起こす可能性のある新規感染者数を抑制し続ける必要がある。また、今後発生しうる新興感染症の世界的流行に備えて対策手法を構築することが求められる。本研究課題は室内環境における飛沫・飛沫核による呼吸器感染症の感染リスクを評価し、エビデンスに基づいた感染対策を提案することを目的としており、本研究の対象を咳以外の呼吸器活動で発生する飛沫・飛沫核へと拡張し、新型コロナウイルス感染症のリスク評価・感染対策評価に展開することで、研究の推進とともに社会で必要とされている知見を提供することができると考える。引き続き、SARS-CoV-2に関する最新の知見を収集しながら、室内環境における有効な感染対策について検討する。得られた成果は論文化して研究発表する他、所属する学会・委員会等を通じて随時社会に発信する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた資料が予定通り納品されなかったため、次年度に購入する予定である。
|