本研究はハノイ旧市街の歴史的都市景観を特徴づける同業者集積の価値と維持継承方策について、事業活動と物理的環境の接点に着目して検討した。 景観規制・誘導の基礎となる建設管理プロセスを調査したところ、現行の保全規制が法的に担保されていなかった。そのため、今後の政策立案に向けて具体的な景観マネジメントの対象を特定する景観変容スコアを作成した。変化の激しいハンブオム通りを対象に、2015-2019年の建物外観と業種の変化の強度・速度をスコア化して分析し、次の3点を指摘した:①外観の表面的変化は業種変化の程度に関わらず起こる、②観光化された通りと近い地点の建物の変化強度が大きい、③従来の観光業よりもNTEs等の新観光業種や複合施設への変化がより大きな外観変容と関連する。 同業者集積の地理的分布の変容実態を量的に検証するため、複数年の植民地期の営業税納付者名簿をGISで分析した。1929-1938年の業種別ヒートマップを作成し、顕著な集積の存在、新たな集積の発生、地区全体に偏在する業種、等を特定した。一部の通りで同業者集積の歴史性を裏付けた他、同業者集積の発生・消滅の過程を一部可視化した。 建物の使い方と事業活動の関係を把握するため、昔から金属加工販売事業者が集積してきたハンティエック通りで連続立面写真の撮影、事業者ヒアリング、工房・店舗の大まかな平面構成を分析し、事業活動の特徴として次の5点を指摘した:①製品サイズに応じた通り空間と外部の製造拠点との使い分け、②事業を支えるバイクタクシーや原料卸会社等の物流ネットワーク、③家族内での製造スキル継承、④職人集落との事業上・血縁上の繋がり、⑤同業者集積内部での事業上の共助関係。 本研究の意義は次の2点である。①歴史的都市景観の変化を可視化する景観変容スコアの開発、②植民地期史料のGIS分析から同業者集積の歴史的価値の裏付けと動体的な変遷の可視化。
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