本研究では、漁業集落の空間特性と主たる地域組織の活動変遷を明らかにすることで、集落の地域計画における「地域性」の更新手法を明らかにすることを試みた。 和歌山市加太地区における文献調査や地域住民・自治体関係者へのヒアリングをもとに、同地区で行われてきたまちづくりに関する活動を整理することができた。その上で、漁業集落の特性を活かした地域づくりに関する知見及び課題を抽出することができた。最終年度は、地域づくりにおける今後の課題を明らかにした。 本研究では地域づくりを展開する主体としての共同体に着眼点を置き、設立経緯とその背景を明らかにした。さらに、戦後以降の加太地域の状況と地域づくりの主体の変遷を整理することもできた。これにより、地域づくりの仕組みと組織や共同体の役割を明らかにし、少人数社会の地域づくりに関する知見を得ることができた点においては意義を有すると考える。一方で、漁業地域の空間的な骨格はさほど変化しないこと、その上で地域づくりのプロセスとしては生業組織やコミュニティの協働のあり方による部分が大きかった。 本研究対象期間中に、新型コロナウイルスが猛威をふるい、研究計画においては当初は想定していなかった緊急事態宣言下における集落での生活行動や共同体の空間利用に対する意思決定の動きを社会情勢と照らして明らかにすることができた。 今後の課題としては、地域づくりの舞台としての役割を持つ空間に限定せず、公共空間などの社会的空間や、生業の作業場所や祭事の会場などくらしに近い空間も抽出し、これらに着目することで、更なる漁業集落の計画的知見を得ることができると考える。
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