本研究は人口減少に伴い発生する低密居住市街地への都市計画の見地からの対処方策に関する示唆を得ることを目的としている。特に、日本に先んじて極端な人口減少を経験した米国の諸都市において、許容容積率等を引き下げるいわゆる「ダウンゾーニング」を適用した事例に着目し、その策定プロセスと計画技術を明らかにすることに注力した。 最終年度である2022年度は2019年に続き現地調査を実施し、人口減少都市ではないがダウンゾーニングを実施した都市である米国・ニューヨーク市の郊外住宅地を複数踏査した。ニューヨーク市ではブルームバーグ政権下でリゾーニング(土地利用規制条例の見直し)を実施しているが、ダウンゾーニングが実施された地区は持ち家率が高く指定容積を使い切っていない住宅地等を多く含んでいることが判明した。 また、後続のデブラシオ政権下でもリゾーニングが継続して実施されているが、アフォーダブル住宅供給を進めたい市側と住環境を堅持したい近隣コミュニティ(市民団体)の間で対立が発生していることが判明した。この場合、ダウンゾーニングは土地需要に対応するための規制緩和策ではなく、住環境や不動産価値を保持するための手段として利用されていることも合わせて判明した。 研究期間全体を通し、米国の人口減少都市および人口増加都市両方を調査した結果、各自治体が置かれている状況によりダウンゾーニングの計画的・政策的な意味合いが異なることが判明した。前者の人口減少都市の場合は、都市経営の効率化のために現状の人口密度や土地需要に相応しい容積率にゾーニングを調整することを目的としており、後者の人口増加都市の場合は現状の住環境や資産価値の保持、あるいは新規流入者を可能な限り抑制するための手段としてダウンゾーニングを使用している場合があることが判明した。
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