研究課題/領域番号 |
19K15178
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高嶺 翔太 早稲田大学, リサーチイノベーションセンター オープンイノベーション推進部門, 研究助手 (20788559)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コミュニティ・カフェ / 居場所 / 協働 / 地域資源 |
研究実績の概要 |
本研究では、医療・福祉関連団体の活動を通した「個々人の健康増進」と「地域課題の解決」、そしてそれらの相乗効果を相対的に「地域的処方」と呼び着目している。そして個別事例がまとまりを持たずに散見されている状況に対して、その実施方法を理論化することが必要であると認識している。そして理論化の枠組み設定と、理論の描出を目指している。 2021年度は、2020年度までに実施した調査から得られた「地域的処方の」枠組み設定、「地域的処方」進展プロセスの可視化、「地域的処方」促進要因の解明に関する成果を理論として取りまとめることを試みた。具体的には、「地域的処方」の実施拠点として、地域住民を中心とした不特定の人々が気軽に訪問可能で、利用者間の関係構築が見られる場の代表として「コミュニティ・カフェ」に注目するとともに、その中でも高齢者介護などの福祉事業や、医療・看護事業を併せて実施する事例に着目し、運営者らがコミュニティ・カフェの運営と福祉や医療・看護事業との関係をどのように位置付けているかという点について、具体的な認識・手法を特定した2020年度までの成果を活用し、それらを理論的に整理する概念を検討した。その概念としては、「私的側面/公的側面」という対照的概念を用いることとした。この概念を用いた理由としては、民間が私的に運営することによって、地域の様々な主体と柔軟に連携するコミュニティ・カフェと、コミュニティ・カフェの経営を支えつつも事業内容が公的機関から規定されており、運営に制約をもたらすことや地域からの誤解を生む可能性を孕む福祉や医療・看護事業が、常に緊張関係に有ることを表現するためである。そして、私的側面/公的側面の両立という観点で、「地域的処方」が成立する要件を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス流行の影響を受け、「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究については、2020年度から引き続き、やや遅れている状況にあると考えている。そのため、「科研費(基金分)の補助事業期間延長承認申請」を行い、承認を受けることとした。 一方で、調査情報の分析を深めることができたために、2020年度には日本建築学会計画系論文集に調査成果を含む論文が掲載されるなど、当初予定とは異なる点で研究成果を挙げることができていた。本年度に関しても、関連する既往研究や書籍の収集などに寄って、これまで収集した調査成果を理論化するための概念設定について、より詳細に検討することができた。その結果として、私的側面/公的側面の両立という観点で、「地域的処方」が成立する要件を整理することができた。 また2021年度中には実施できなかったものの、2022年度には、構築した理論をコミュニティ・カフェの運営者らに提示した上で、理論に関する対話を実施し、各事例にける理論の適合性や意義を確認する、より適切な表現方法や、今後の活用方法について意見交換する、さらにはそのような活動を通じて、コミュニティ・カフェの活動が近隣地域や利用者の健康増進にどのような波及効果をもたらしたか、という点について把握するといった予定をたてている。対象とするコミュニティ・カフェの事例は、2020年度以前に調査した事例の中から、幅広い運営実態の事例を複数選定し実施予定である。またオンライン会議システムなどを用いて、新型コロナウイルスの流行の影響を可能な限り受けないように工夫する。こうしたプロセスを経ることに寄って、「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究の狙いであって、成果のさらなる精緻化、社会実装可能性の向上を図る。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において当初想定していたSTEP1「地域的処方の」枠組み設定/STEP2「地域的処方」進展プロセスの可視化/STEP3「地域的処方」促進要因の解明/STEP4「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究/STEP5研究の取りまとめのうち、STEP4については、新型コロナウイルスの流行の影響を受け、未着手であった。STEP5については、一部先行的に実施し、学会投稿などの成果を上げている。STEP4が未着手であることに対しては、「科研費(基金分)の補助事業期間延長承認申請」を行い、事業期間を1年延長することとした。 よって2022年度は、STEP4「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究に取り組むこととする。依然として新型コロナウイルスの沈静化の目処が立たないことから、極力その影響を受けない形で実施する方法を検討する。「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究の目的は、STEP3までの成果のさらなる精緻化、および社会実装可能性の向上を図ることである。このことに対して、STEP3までの成果を、本研究で着目したコミュニティ・カフェの運営者らに提示して、構築した理論の理解可能性、適合性の確認や適切な修正方法の議論を実施することで、これら狙いを達成することが可能になると考えられる。よって、理論に関する運営者らとの対話的検証を実施することとする。この際には、新型コロナウイルスの流行状況に関わらず議論できるよう、必要に応じてオンライン会議システムなどを用いて感染防止策を徹底する。また「地域的処方」の実例を、活動記録調査などに寄ってより詳細に調査し、理論の妥当性の検証を行うことも試みる。 STEP5については、これまでの成果を踏襲しつつ、STEP4の成果を再度取り入れて、改めて取りまとめを行う。また成果公表の方法については引き続き検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行の影響を受け、都道府県境をまたぐ移動や、対面での交流など、研究実施上の制約が生じたことにより、研究進捗が遅れた。また旅費や人件費・謝金が大幅に縮小した。一方で、在宅研究のための備品購入、情報収集のための書籍購入などが増えて物品費が拡大した。総じて2021年度までの研究費の実支出額は、当初予定より小さくなった。2022年度には、当初想定していた研究プロセスのうち、STEP4「地域的処方」促進に向けた研究成果の実証的研究/STEP5研究の取りまとめに主に取り組むこととなる。STEP4の実施にあたっては、コミュニティ・カフェの運営者や関連する諸団体へのヒアリング調査等を実施する予定である。このために旅費や、調査実施のための消耗品等購入のための物品費を支出することを予定している。またSTEP5の実施にあたっては、これまで同様関連する書籍等の購入が必要となる。このために物品費を支出することも予定している。
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