本研究では、医療・福祉関連団体の活動を通した「個々人の健康増進」と「地域課題の解決」、そしてそれらの相乗効果を相対的に「地域的処方」と呼び着目している。そして個別事例がまとまりを持たずに散見されている状況に対して、その実施方法を理論化することが必要であると認識している。そして理論化の枠組み設定と、理論の描出を目指している。 2022年度は、2021年度に実施した、「地域的処方」実施の理論化の成果について、精緻化するとともに、いくつかの事例運営者との意見交換を通して妥当性の確認を試みた。また社会潮流を改めて整理し、本研究成果の発展方向について検討した。 理論化にあたっては、「地域的処方」実践の拠点として、地域住民を中心とした不特定の人々が気軽に訪問可能で、利用者間の関係構築が見られる場である「まちの居場所」に注目した。そして運営を私的側面(非公認の、ひとりひとりのための、閉鎖的な)/公的側面(公認の、みんなのための、開放的な)の観点から分析した。 具体的には、一方の側面に偏ることによって運営が立ち行かなくなる「形骸化」が発生すること、また一方の側面に偏った場合に「両側面に基づく活動の相乗効果を生む」「両側面に基づく活動を一時的に切り離す」「一方の側面に基づく活動を促す」による対処が可能であることを説明する理論を構築した。「形骸化」の現象および対処方法については、これまでの調査から得た具体的な現象・方法を位置づけた。 その上で理論を隣接分野研究者や「まちの居場所」運営者らに示し、意見交換することで精緻化した。結果、大まかな構造については理論の妥当性が確認できた。まとめると、「地域的処方」をすすめるために「まちの居場所」の私的側面/公的側面の両立が必要であることを示した。また本研究の発展方向としては、「まちの居場所」の地域格差についてさらなる検討が必要であることを確認した。
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