本年度、本研究では、2021年度にその有効性を検証した計画指標を用いて農的空間の計画モデルを構築するために、国内外の事例の視察及び現地調査を実施した。特に、イタリア・トリノのコミュニティガーデンOrti Generaliでは、各利用者の農地区画に居住空間が拡張されている実態を把握することができ、その実現のための空間デザインの工夫や管理・運営方法をヒアリング調査によって明らかにすることができた。 研究期間全体を通して本研究は、都市農業・都市農地に関する既往研究の整理から研究の立ち位置を明確にした上で、市民農園を対象とした都市住民の農との関わり方の実態解明を通して、親和性、社交性、多様性の3つを農的空間の評価軸として設定した。そして、親和性に関しては、世田谷区烏山地域を対象に農地区画の変容実態を明らかにすることで評価指標を提示した。また、社交性、多様性に関しては、3つの農的空間を対象にその空間形態を詳細に分析することで評価指標を提示した。さらに、農的空間の利用者の行為や意識変化から包括的に農的空間を評価することで、設定した3つの評価軸の有効性を検証した。以上を踏まえ、提示した農的空間の評価指標の計画への適用効果を論じるとともに、構築した評価指標に基づいた先進事例の現地調査を実施することで、農的空間の計画的介入モデルを示した。 以上、本研究は、都市農地が住生活の質の向上にとって重要な役割を果たす地域共通の資本であることを明確にした上で、それらが存続するために有効な評価指標と、農的空間を創出するための計画指標を構築した。本研究は都市住民による農地の多面的な利用を通して、都市における住生活の営みを今一度向上させることを目指すものであり、農地が居住空間の一部として存続し、そして宅地や住宅などの建物と共存可能な新たな市街地像を実現するための農地の計画のあり方を示すことができたと言える。
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