研究課題/領域番号 |
19K15192
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
植田 曉 北海学園大学, 工学部, 客員研究員 (40828779)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イタリア / テリトーリオ / 文化的景観 / テッスート / 農業地域 / ポデーレ |
研究実績の概要 |
本研究はイタリアで農業景観の分析手法として、建造物の類型学と都市形態学を組み合わせた手法の応用が提唱されたことを踏まえ、その手法を実践的に検証することを目的とする。同国トスカーナ州シエナ県に位置するユネスコの世界遺産文化的景観「オルチア渓谷」のテリトーリオ(自給自足を基本とした定住環境)を研究の対象としている。2年目となる2020年度の研究実績は、A.景観分析手法の検証の推進、B.「オルチャ渓谷における自治コムーネ法に基づく景観分析にかんする研究会」の主催、C.イタリア研究会(任意団体)におけるレクチュア(共同)、D.本研究を反映させた書籍出版企画、以上の4点である。 Aの実績:渡航が叶わなかったため、「真正性と歴史的重層性の面から複数異種の景観構成要素を抽出」した上で収集した資料を活用し、研究の目的の第2段階にあたる「テリトーリオ全域を第1段階の単位空間が有機的に集合した「テッスート=組織」と理解し、その特徴を読みとく」ための作業を先行した。建造物の類型学と都市形態学を組み合わせた手法の汎用性を検証するため、地上に立地する建造物や植物を景観構成要素と位置づけて、2019年度に現地で撮影した写真を分析し、類型化を図った。 Bの実績:オルチャ渓谷の3つの自治都市で10~14世紀に制定された、ラテン語で書かれた都市条例から把握できる、都市と田園を形成し維持する方法にかんする知見、イタリアの複数の他地域におけるテリトーリオ研究で、都市条例から農業景観を読み解く可能性にかんする知見、双方の供与を受けることを目的とし、研究会を開催した。 Cの実績:同会が主催する「オルチャ渓谷のフィールド調査-田園の価値の再発見」と題するオンライン講演会で、本研究を反映させて発表した。 Dの実績:Bの研究会の参加者を中心に、本年度までの本研究の成果を反映した書籍を共著にて出版することを決め、執筆作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績Aについては、2019年度に景観構成要素を分析し選定するための写真を、当初に予定した区域より広く撮影できたため、2020年度の研究の推進が可能となった。これらの写真と歴史的な絵画史料、歴代の地形図や航空写真と組み合わせて分析し、景観構成要素として市井の建造物、農地の作付け、農地の形態、その他の植物という4種類の類型に収斂することができた。これらの景観構成要素を用いて、a.テリトーリオ全域の空間構造との関係性を明らかにした。b.建造物の類型よりポデーレ(農家)に着目し、他の景観構成要素(作付け、農地の形状、その他の植物)の類型を組み合わせ、ポデーレの佇まいによる類型をつくった。c.ポデーレが立地する土地の形状と水の供給がなかった時代の取水の方法を推測し、bの類型と組み合わせた。cで導いた景観構成要素と地形の組み合わせによって、一回り大きな景観構成要素を創出する段階まで到達した。 研究実績Bについては、研究会を経て、中世の自治都市の市街地は市壁に囲まれているものの、それはあくまでも防御のための措置であり、実体としては人々は市壁の内外で農業を軸とした生活をし、双方の空間には密接な結び付きがあったことを把握することができた。また同様の傾向が他州の農業地域に分布する都市と田園の関係においても見られるとの報告を受けた。研究会を開催することによって、今日のテリトーリオの景観の骨格形成を自治コムーネの都市条例が方向付けていたこと、都市条例が都市と田園の密接な結びつきと利用を促していたこと、今日の都市と田園を結ぶテリトーリオという思想がこの時代には誕生していたことを理解するに至った。 研究実績C、Dについて発表・執筆を担当したのは、農業景観の真正性と歴史的重層性にかんする考察である。Aの本年までの研究を盛り込み、Bの研究で得た知見を反映させた。Dは2020年度末の段階で初稿を完成させた。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績A、Cの作業を継続して進める。2021年度も2020年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の日本、イタリア双方の蔓延状況を勘案し、現地調査の可否を見極めなければならない。 今後の研究として、A、Cの研究で導いたポデーレが複数立地する範囲を想定し、新たな景観構成要素の考え方を発見するとともに、テッスートとしての結びつきを見出すことから、一層広く景観を捉える視点を導きたい。この研究は絵画、地図、航空写真、2019年に撮影した写真資料から、ある程度は継続して推進することができる。 またこれまでの資料分析で河畔林が存在感を示していることを見出した。景観構成要素としての位置付けを検討したい。これまで河畔林は1985年以降に策定が義務付けられたイタリアの景観計画において、土地利用として取り扱われたものの、景観構成要素として研究した実績は見出してはいない。今の段階ではポデーレが分散する農業地域、市壁を持つ都市と周囲の農地の双方における検証が必要と予測している。この作業は撮影を終えていない農業地域の追加撮影に合わせ、現地調査を必要とするものの、予め事例地区を想定するなどの準備を進めたい。 研究対象地における晴天日が多いのは、10月上半期までである。この頃までに調査を終了できる状況が整えば、渡航調査を予定通りに実施したい。そのため我が国、渡航先、中継国などの感染症の蔓延状況や対応状況に留意し、実施を検討する。 研究実績Cは本年上半期には出版としたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の世界的な蔓延のため、現地調査に出向くことが叶わなかった。 2021年度に本年に実施できなかった現地調査を推進し、計画どおりの支出となる見込みである。
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