四年目の令和4(2022)年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受けて現地調査が困難となったために遅延していた計画の延長が承認されて、実施したものである。 本年度は、グラヴィーナ・イン・プーリア市とファサーノ市を中心に、農家建築(マッセリアmasseria)と農場に関する現地調査を行った。高ムルジェ台地に位置するグラヴィーナ・イン・プーリア市では、農場に関する20世紀初頭に作成された課税用不動産台帳の附図が8軒入手でき、空中写真および現地での観察から、農地の形状や作付けに大きな変化がないことが確認できた。大土地所有が支配的だった時期に行われていた粗放農業による小麦栽培が現在も続いていた。一方、アドリア海沿岸のファサーノ市周辺ではオリーブなどの果樹栽培が主で、一軒あたりの農場は高ムルジェ台地と比べると規模が小さい。また、内陸部のムルジェ台地に比べるとアドリア海沿岸のマッセリアは堅牢で要塞化した建築形態をしており、塔状の主屋も見られた。 ティレニア海側のアマルフィ海岸での調査では、耕作面積が少なく、雛壇状の畑では果樹栽培を行っているため、小麦はプーリア州からの輸出に頼っており、陸路で運ばれていたことが、現地研究者との情報交換の中から分かった。 本研究では、プーリア州における農場経営と拠点となる農家建築(マッセリア)についてフィールド調査を行い、内陸部と沿岸部との間には農作物の違いだけでなく、農場規模やマッセリアの形態にも差異があることが明らかになった。
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