研究開始時には台湾への研究出張を計画していたが、2020年度・2021年度から引き続き、大半の期間においてコロナ禍の影響で出張が困難であった。そこで、前年度までにおこなってきた日本国内で遂行可能な調査を中心に継続し、本研究のまとめとして、複数の論文を執筆・発表した。 日本植民地時代の経験は、建築においても、植民地以後にさまざまなかたちで継承・連続されていることが了解された。それは植民地期に構築された建築物や生産・教育システムの残存というかたちをとることもあれば、戦後における同時代的な建築家の活動や建築メディアの参照というかたちをとることもあった。本研究では、具体的に、大阪万博中華民国館の設計プロセスを詳細に検討することで、「伝統と近代」といった戦後日本建築において盛んに議論されたテーマが、同時代の台湾においても形を変えて主題化されていたことが明らかになった。 また、台湾をふくむアジアと戦後日本の建築の関係性を理解するうえで、ポスト植民地とともに冷戦構造が重要な与件であることが認識された。冷戦構造のもとで、大陸の中華人民共和国と日本は国交がなかったが、そうした状況下でも、建築学の交流がわずかに存在していた。本研究では、具体的に、西山夘三の大陸中国との交流活動に注目しながら、冷戦構造のなかで分断された東西陣営の建築学におけるマルクス主義の影響を考察した。また、国交成立直後には、大阪万博の跡地を舞台に大規模な中国展覧会が開催されており、その開催経緯や空間・施設の転用方法について明らかにできた。
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