研究課題/領域番号 |
19K15196
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡邊 大志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60632114)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ブルーインフラ / 東京港 / 大阪港 / 港湾倉庫 / 近代港湾 / 伝統港湾 / 都市の把握モデルマトリックス / 都市史 |
研究実績の概要 |
初年度の上半期はこれまでの東京港に関する研究を素地として、さらに目黒川流域、隅田川流域、外濠川に焦点を当てた研究を行った。それらの成果を広く一般に周知するため、2019年(令和元年)7月5日から7月27日まで港区芝浦のリソーコ・ギャラリーにおいて展覧会「ブルーインフラがつくる都市ー東京港湾倉庫論ー」展を開催し、それに併せて小冊子の作成を行い上半期の成果をまとめた。これに伴って本研究テーマに関するシンポジウムを7月5日に行い、加藤耕一東京大学工学部建築学科教授、建築ジャーナリストの中崎隆司氏を招き100人規模の一般参加者も集まり、研究の成果について幅広い批評と知見を得る重要な場となった。。「都市の把握モデルマトリックス」によって東京港の場合に描かれる地球の姿を立体模型にして提示し、併せて港湾の歴史から導かれる次世代の東京の姿を図面、模型、解説文によって示した。 また、これらの展覧会の開催と並行して、下半期にかけてのその他の五大港の研究展開の最初として大阪港について調査することとした。2019年(令和元年)8月には大阪港湾局の港湾計画担当者の聞き取り調査及び、南港から尻無川、安治川流域にかけての港湾用地を中心として現地調査を実施した。さらに、大阪港史に加えて大阪港湾局の内部資料である港湾計画資料などを入手した。そして安治川の中之島先に、大阪港の近代港と伝統港湾の領域の境があることを明らかにした。加えて、尻無川を中心としたかつての石山本願寺によるグリッド状の街区計画における大阪の近代ブルーインフラが果たした役割について調査する端緒を得た。また、本研究期間中に大阪万博の2025年承知が正式に決定したため、南港及び夢洲の将来港湾計画についても大阪の都市的位置から考察を継続中である。これらの現地調査、資料精査は今後ほかの五大港に範囲を広げる上で基本的な研究手法の確立としても重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では初年度を資料収集・検証期と位置づけ、行政管理者(国交省(旧運輸省、建設省)、府県港湾局、港湾管理者(市港湾局)、船会社(海運業社)、港運業社、港湾陸運業社、倉庫業社などの資料を収集し、港湾における近代化の画期を発見することを予定した。それに対し、実際にはこれまでの東京港の成果をさらに発展させることと大阪港を新たなフィールドとした現地調査と資料収集を同時並行して行うことで、それぞれ個別の港湾における画期と一港湾内に止まらない五大港共有の画期があることが明らかになりつつある。名古屋港、神戸港、横浜港における資料収集と検証は次年度の資料分析・類型化期においても継続研究が必要であるが、その上でもこれらの二つの港の調査においてその基本的な研究手法が有効であることが確認できたのは重要である。 また、上記の資料収集対象のうち、行政管理者(国交省(旧運輸省、建設省)、府県港湾局、港湾管理者(市港湾局)はほぼ終了しているため、それら資料の分析過程において必要な部分に焦点を絞って船会社(海運業社)、港運業社、港湾陸運業社、倉庫業社などの社史などの資料を当たることで、初年度及び次年度の当初の目標が達せられる目処が立っている。そのため、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度では、初年度に引き続き名古屋港、神戸港、横浜港を中心とした現地調査及び資料集によって五大港全体を俯瞰する研究視点を明確にして掘り下げて行くことに何ら変更は必要ない。その一方で、実際に研究を進めて行く中で、それら五大港による都市の近代化の特異点を指摘し、それによる都市の近代化構造をモデル化するためには、日本の近代港湾と根本的に異なる形式を持った世界の港との比較研究を行うことが非常に有効であることが分かってきた。 そのため、島国である日本の五大港に代表されるような自国の港や一港湾内でほぼ全ての港湾機能を完備しなければならない「閉鎖系」港湾と比較して、他国の港を含めた海域全体で一定の港湾機能を網羅し自国の港や一港湾内であらゆる港湾機能を意図的に揃えない港である「開放系」港湾を考えることで、本研究の最終的な目標であるこれまでの成果で得た「都市の把握モデルマトリックス」の検証と修正を行うことを考えている。 具体的には、近世まで海洋交易の中心であった地中海の裏側に位置し、バルト海交易圏を構築する港の一つであるフィンランド・ヘルシンキ港を扱う。これにより、東京港から導かれた「都市の把握モデルマトリックス」をその他の五大港を含めて適用可能かを検証とともに、その五体港による検証そのものをその外にある異なる形式を持った国際港の視点から相対化する、という二重の検討を実施する。 以上を要するに、今後の研究の推進方策としては当初の予定通りにその調査領域をその他の五大港に拡げると同時に、その五体港による検討の意義をその外になる五大港とは異なる「開放系」港湾によって相対化する作業を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度の上半期を東京港についての新規成果をこれまでの成果と合わせた発表を行ったため、遠地への港湾出張への支出が低く無った。加えて、下半期においても世界的なコロナウィルスの流行による遠地出張の自粛あるいは規制があったことも理由の一つである。 次年度では、その分の遠地への研究出張費を繰越して実施し、その上で当初より予定していた研究業務を予定通りに行う予定であることから、それらを合わせた支出額の使用計画を立てている。
|