研究課題/領域番号 |
19K15196
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡邊 大志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60632114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大阪港 / グリッド都市 / 尻無川 / 淀川水系 / インフラ / 大阪港近代化 |
研究実績の概要 |
今年度の上半期は特に大阪港の近代化過程と大阪の都市構造の変遷に焦点を当てた調査研究を実施した。『大阪築港100 年―海からのまちづくり―』上下巻、『住友倉庫60 年史』、『大阪に於ける倉庫業の実体と問題点』などの資料を用いて詳細な年譜と関連事績との関係をまとめた資料を作成し、大阪港近代化過程における3つの画期を抽出した。すなわち、①東京築港のモデルが河川計画(安治川・尻無川など)としての築港及び大阪の伝統的なグリッド都市との併存に反映された時代、②民間資本による民間埠頭の建設によって港勢が拡大された時代、③第二次修港工事に端を発して南港建設に至る、淡路島を対岸とする大阪湾の地理的円環構造を近代化によって閉じた時代、である。これら三つの画期を明らかにし、上半期から下半期にかけて大阪港港湾局での聞き取り調査、所蔵資料の閲覧収集、現地での実地調査を実施し、さらに詳細な細部を明らかにしていった。また、これと並行して淀川水系を大きく構成する尻無川に着目し、その水源である琵琶湖から大阪湾に至る河川の近代化を追った。琵琶湖疎水に代表される淀川水系の上流での近代化は、その下流域である大阪の都市構造とその水が流れ出る河口に領域を形成する大阪港の近代化への影響がうかがえる。その結果として、淀川水系の南北にグリッド都市が歴史的に建設され、そのグリッドの設計基準が淀川水系を境として芯々制と内法制に大きく分かれることを考えるに至った。下半期はこの新たな仮説において、尻無川及び大阪港の近代化が大阪の伝統的グリッドに与えた影響について検証を行った。また、下半期頭の9月には、昨年度までの知見も含めた展覧会をフィンランド・アアルト大学にて開催し、ヘルシンキの港湾都市との比較展示を実施するなどして、当該研究内容の独自性と展開可能性について国際的な周知を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度同様に、今年度も新型コロナ感染症による移動制限や対面での現地調査制限に大きく影響を受けた。そのため、研究期間の一年間の延長を申請し、受理されたところであす。このような理由のため全体の研究遂行においてはやや遅れている状況である。しかしながら、これまで明らかになった知見をその間に整理し、十分な検証を行った結果、研究計画の立案当初では想定されなかった仮説と展開可能性が生まれつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究全体の成果のまとめと社会への周知に向けて遂行していく。特に大阪港に注ぎ込む水系と安土桃山末期の石山本願寺によるグリッドの都市構造との併存関係の中で、これまでの港湾研究にない陸上の都市イデアへの港湾の影響に着目した検討を進めてく予定である。その大筋の中にこれまで明らかにしてきた東京港、名古屋港、神戸港が持つ大阪港との相対的な関係を落とし込むことによって、日本の五大港における近代化過程において、拙著『東京臨海論 ー港からみた構造史ー』(東京大学出版、2017)において明らかにした港湾の近代化のモデルと「都市の把握マトリックス」が適用可能と考えられる部分とそれ以外に大阪港独自の港湾が都市構造に与えた部分を仕分けして整理する。その後、大阪港が持つ独自の港湾が大阪の伝統的なグリッドの都市構造に与えた影響を第三の港による都市の近代化モデルとしてモデル化し、東京港の近代化モデルと「都市の把握マトリックス」に加えた第三のブルーインフラの類型としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症による行動制限のため。主に、各港湾への現地調査への交通宿泊費、現地調査の際の資料代、論文等の投稿費、研究成果の発表のためのシンポジウムの開催及びその際の有識者への謝金、などに使用する計画である。
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