本研究は、それまでの東京港に関する研究から得た都市モデルについて、その他多くの国内外の近代港湾における適用可否を検証すると共に、東京港と同様に国策として戦略的に近代化された港湾を取り上げ、その特有の都市モデルをあぶり出すことを目的として遂行された。その結果、大阪港では研究開始当初は港湾の近代化に焦点を当てていたが、研究が進むに従い、歴史的にも地理的にもより大きな水系である淀川の近代化が京都と大阪の都市領域を超えて与えた影響があったことが明らかになった。また、港湾としても神戸港や広島港など瀬戸内海沿岸のその他の港湾と連携して港湾機能が近代化されていくなど新たな学術的問いを立てることができた。 これらの成果について、研究期間中に随時成果を広く周知した。 2019年度は7月に芝浦の港湾倉庫を会場に「ブルーインフラがつくる都市ー東京港湾倉庫論ー」展を開催し、冊子を発行すると共に有識者とのシンポジウムを開催した。8月は「Blue Infrastructure Making A City 」を講演するなど、これらの成果を踏まえて2020年度には「図説 港区の歴史」を共同執筆した。これらと並行して、フィンランド・アアルト大学、ドイツ・ベルリン工科大学で関連する講演会・学術研究会を開催した。2021年度はコロナ禍による中断があったが、日本建築学会学会誌「建築雑誌」において複数の投稿依頼記事を執筆し、単著「ひとつなぎの建築」(ADP出版)を出版した。2022年度は「大阪港と東京港の築港モデルに関する考察」を梗概にまとめ日本建築学会大会にて口頭発表を行った。 これらで明らかにされた①港湾から見た都市モデルのローカリティ、②複数港湾の連携による港湾概念の構築とそれによる都市の近代化過程、③水系による都市領域横断型の都市モデル、の三つはいずれもこれまでの都市史研究や港湾都市研究には無かった視点である。
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