これまで2年間の研究成果として、「明治期下川路村の景観構造の復元と民家類型」(『飯田市歴史研究所年報』19号収録)を発表した。このなかで農村地域では珍しい明治30年代の建物台帳を用いて、主屋の平面形態の点で正方形に近い平面をもつ本棟造の系統と平入で長方形平面をもつ別系統の存在が示唆されることを示し、また、その一部は萱葺であったことが判明した。こうした事実は現存している古民家調査からは明らかにされ得ないものであり、史料の詳細な読み取りを通した景観の復元研究の有効性を示すことができたと考える。また、こうした研究成果を大判の展示パネルにまとめ、川路地区公民館の文化祭へ出展した。さらに年度末には、川路の住民向け講座を開き、研究成果の公表を通した地域交流にも取り組んだ。 一方、今年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、古民家の実測調査は難しい状況がつづき、昨年度から検討していた高森町吉田地区の実測調査は実施を見送った。その代わりに、明治初期から大正期の地引絵図・地籍図史料の歴史GIS分析を主な研究内容として、飯田市内の伊賀良地区・座光寺地区・松尾地区・鼎地区・阿智村駒場等で比較研究を進め、特に近世にさかのぼる旧茶屋町・宿場町地区の地割形態の特徴として、6尺を1間とする江戸間をモジュールとするものと、6尺3寸を1間とする京間をモジュールとするものの二種類が想定できる可能性を発見し、そうした知見を上伊那地方の宿場町であった宮田村宮田宿の調査報告書に比較研究として寄稿した。これにより、旧伊那街道等の街道沿いの歴史的町場景観の形成に関する総合的な比較研究の可能性が開かれたといえ、今後の研究展開の足掛かりが得られたと考えられる。
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