研究課題/領域番号 |
19K15207
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
須藤 真琢 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙探査イノベーションハブ, 研究開発員 (80712851)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 月惑星探査 / 探査車 / 着陸機 / テラメカニクス / レゴリス |
研究実績の概要 |
月惑星探査機の設計や制御の指針を与えるため、本研究では、月や火星の地表面で探査機(探査車や着陸機)に生じる力や沈下の関係(「地盤と機械の相互作用」)を解析し、その関係を表す数理モデルを構築することを目的とする。この目的達成のため本研究では(A)月や火星の特有環境を模擬する実験装置の開発、(B)走行実験による地盤と車輪の相互作用モデルの構築、(C)着地実験による地盤と着陸脚の相互作用モデルの構築に取り組んでいる。以下、各項目について当該年度の研究実績の概要を記す。 前年度(A)および(B)で制作した試験装置を用いて、真空チャンバ内に固定した砂層で車輪の走行実験を行い、月や火星特有の環境で探査車の車輪が生み出す駆動力と滑りや沈下の関係を計測した。計測データに基づき地盤と車輪の相互作用を表す数理モデルを導出した。加えて大気中と真空中における車輪の走行実験を比較することで、圧力の違いが車輪の走行挙動に及ぼす影響がわずかであることを定量的に示した。これは、探査車の設計や制御に関する重要な知見であり、この成果を雑誌論文にまとめて発表した。 (C)において、前年度に制作した着陸機の着地を模擬する試験装置を用いて着地実験を行った。実験では、(A)で製作した真空チャンバ内に固定した砂槽において、落下速度および横滑り速度を変化させて着陸機の脚を模した模型を着地させた。着陸脚の挙動解析について、実験に加えて数値シミュレーションの活用を検討し、その有効性を確認した。着陸脚の着地実験および数値シミュレーションから、地盤と着陸脚の相互作用を表すために必要な基礎データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の(A)~(C)は、本研究着手当初に設定した項目であり、当初の研究項目に沿って研究を行っている。 (A)は、2019年度に実施予定の項目であり、当初の予定通り、月や火星の特有環境を模擬する実験装置の製作を完了している。また、(B)は、2019~2020年度に実施予定の項目であったが、当初の予定通り、大気中および真空中における車輪の走行実験を完了した。この実験から得られた車輪の滑りや沈下に関するデータから、地盤と車輪の相互作用を表す数理モデルを導出した。加えて、大気中と真空中における車輪の走行実験の比較から、圧力の違いが車輪の走行挙動に及ぼす影響がわずかであることを確認した。(C)は、2020~2021年度に実施予定の項目であるが、2019年度に前倒しで試験装置の制作に着手し、動作試験を完了した。2020年度、この装置を用いた実験から、真空環境における地盤で脚の反力や沈下に関するデータを取得する予定であったが、新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言に伴い研究実施機関への立入が制限されたため、当初想定したすべての実験を行うことが困難となった。そのため実験を主体とした研究計画であったが、数値シミュレーションの活用を検討し、その有効性を確認した。今後、実験に加えて数値シミュレーションを活用して、月や火星特有環境における着陸脚の動作挙動の解析を進める予定である。 実験を縮小して実施することとなったが、実験に加えて数値シミュレーションを活用した研究指針が整っており、本研究は、研究着手当初の研究実施計画に沿っておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、(B)走行実験による地盤と車輪の相互作用モデルの構築、ならびに(C)着地実験による地盤と着陸脚の相互作用モデルの構築に取り組む。研究着手当初、実験主体の研究計画であったが、数値シミュレーションを活用することで効果的に研究を進め、研究成果の最大化をはかる。 (B)について、これまで行った車輪の走行実験に加えて、個別要素法(DEM)を用いた数値シミュレーションを実施する。シミュレーションでは、多数の粒子要素を用いて地盤をモデル化し、異なる重力環境において粒子-粒子間、および粒子-車輪間で生じる相互作用を解析する。これにより、月や火星の重力環境が車輪の走行挙動に及ぼす影響を明らかにする。 (C)について、これまでに開発した着陸脚の実験装置を用いて、さまざまな実験条件で着地実験を行い、着陸脚に生じる反力と滑りや沈下に関するデータを蓄積する。実験パラメータとして、着陸脚の落下速度や横滑り速度を変化させ、大気中および真空中で脚に働く反力と沈下をセンサで計測する。加えて、(B)同様に、DEMを用いたシミュレーション解析を実施し、月や火星の重力環境が着陸脚の着地挙動に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言によって、研究実施機関への立入が制限されたことから、当初想定していた実験装置の改造を行うことができなかった。そのため実験装置の物品費として計上していた費用を次年度に使用することとした。加えて、研究打ち合わせや成果発表のために計画していた、国外・海外出張もすべて不可能となったため、旅費として計上していた費用を次年度に使用することとした。 次年度も新型コロナウィルス感染症の影響で、研究実施機関での実験や国内外の移動は、引き続き大きく制限されることが予想される。このため、研究着手当初、実験主体の計画であったが、数値シミュレーションを活用することで効果的に研究を進めていく。物品費や旅費に計上していた費用は、数値シミュレーション用ソフトウェアライセンスの購入に代えて使用する。
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