研究課題/領域番号 |
19K15219
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辰巳 晃 大阪大学, 工学研究科, 助教 (60736487)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 波浪中動的崩壊応答 / 流力弾塑性 / FE/Smith法 / 弾性相似模型船 / 水槽試験 |
研究実績の概要 |
本研究課題では実用的な船体の動的逐次崩壊解析法の開発を行っている.解析法では船体を梁有限要素でモデル化し,横断面の逐次崩壊はSmith法により考慮する.船体に働く流体力はストリップ法の考えに従って考慮する.2019年度は規定した外力のもとで船体の動的崩壊挙動を解析するプログラムを整備した(FE/Smith法). 2020年度はFE/Smith法を波浪中の逐次崩壊挙動を解析できるように拡張した.ラディエーション流体力およびディフラクション流体力は非線形ストリップ法に基づき考慮した.着水時の衝撃流体力は運動量理論により考慮した.本手法をHydrodynamic FE/Smith法と名付け,以下HFSと呼称する.HFSの線形弾性域での妥当性を検証するため,バックボーン型の弾性相似模型船を設計し,大阪大学の船舶海洋試験水槽において波浪中構造応答試験を実施した.その結果,HFSは船体動揺および船体桁応答を良い精度で推定できることを示した. 次に,5,000TEUクラスのコンテナ船を対象にHFSにより波浪中の動的逐次崩壊挙動を解析した.一次近似信頼性手法(FORM)により極限海象における設計不規則波を導出し,縦曲げ最終強度を超過する荷重をコンテナ船モデルに与えた.また,船体桁の弾性振動であるwhipping応答が逐次崩壊の与える影響を考察するため,波浪荷重とは別に規定した衝撃荷重を与えてwhipping応答を再現した.本解析により,縦曲げ最終強度を瞬間的に超過する荷重が作用したとしても,直ちに大変形を伴う縦曲げ崩壊は生じないことが分かった.ただし,船底や甲板の部材は最終強度に達しており,繰り返し荷重が働くと塑性変形の累積が生じる可能性を示唆する結果となった.このように,波浪中の船体の縦曲げ崩壊挙動を部材の挙動とともに短時間(一般的なPCで数分程度)で解析できる点がHFSの利点である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,2020年度はFE/Smith法の波浪中応答解析への拡張と,弾性相似模型船を用いた水槽試験を行った.解析手法と水槽試験の結果を比較し,線形弾性範囲における解析手法の妥当性を示した.検証を行った解析手法を用いて,仮定したシナリオのもとで実船の波浪中逐次崩壊挙動を解析し,いくつかの知見を得た.以上より,研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の成果として,波浪中の船体の逐次崩壊挙動を短時間で解析できるHydrodynamic FE/Smith法を開発した.本手法により波浪中で船体が縦曲げ崩壊する過程で部材に生じる変位の時刻歴が求められる.この変位を強制変位として,シェル有限要素でモデル化した防撓パネルに与えることで,部材レベルで崩壊挙動を詳細に調べる.特に,防撓パネルの座屈崩壊挙動に対するひずみ速度の影響や延性破壊などの損傷に関して新たな知見を得ることを目的とする. 一方,HFSよりも詳細な解析法で船体の縦曲げ崩壊をシミュレートすることも行う.当初の研究計画では,船体に働く流体力を非線形ストリップ法だけでなく,CFDにより評価することを計画していた.しかし,配分される研究費のなかで精度に信頼のおける商用のCFDソフトを導入することは難しい.そこで,流体力は非線形ストリップ法で評価しつつ,構造側(船体)だけを詳細なシェル要素でモデル化し,船体の縦曲げ崩壊計算を行う.詳細なシミュレーションとの比較を通じて,HFSの妥当性の検証を進めるとともに,HFSの適用可能範囲を明らかにする.
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