最終年度では、第一に、ドライバーが交通環境を観察する際の眼球運動を計測し、視覚的注意の特性を検証した。短時間だけ交通環境の映像をドライバーに提示し、その中に危険事象が存在したか否かを判断してもらったところ、映像を300msec提示した場合に、若年者と高齢者の成績差が認められたことから、映像を観察する際の眼球運動を計測して、年齢による違いがどのような特徴に現れるかを探索的に検証した。 当初、映像内の危険事象をAOI(Area of Interest)と設定し、AOI内に視線が向けられる素早さや、割合を分析する予定であった。しかし実際にデータを取得したところ、若年者は危険事象の近くまで素早く視線を向けはするものの、危険事象自体に視線を重ねることがほとんどなく、周辺視野で危険事象を捉えていることが判明した。 また、視線の移動は映像消失後に生じることが多く、危険事象はボトムアップに視覚的注意を捕捉するのではなく、ドライバーは視覚的ワーキングメモリ内の情報に基づいて危険事象を探索している可能性が示された。対して高齢者の眼球運動は個人差が大きく統一的な傾向は認められなかったが、若年者に比べて視線の移動が遅い傾向があった。 第二に、ドライバーの社会経済的地位と道路横断行動の関係について調査を行った。より高度な運転支援システムが社会実装される過渡期においては、そのようなシステムを利用可能なユーザは限られると予想されるため、個人特性による運転行動の違いを明らかにする意義がある。先行研究の知見と整合し、社会経済的地位が高いドライバーは、より自身が優先的に道路を横断しようとする傾向が認められた。 研究期間全体を通じて、上述の2点に加えて、運転中にオンライン会議などで通話することにより危険事象の検出が遅れることを明らかにし、現在の社会情勢に応じて注目すべきドライバーの注意特性を明らかにできた。
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