本研究の目的は,「限界酸素濃度以下のイナーティングシステムにおける新規リスク管理手法」である.可燃性ガスを取扱うプロセスでは,通常イナーティングシステムとして,不活性ガスを導入し酸素濃度を0にし,燃焼の三要素の燃料,支燃性ガス,着火源の支燃性ガスを無くすことで火災・爆発の危険性を取り除いている.酸素濃度を限界酸素濃度(LOC)以下にすることで火災・爆発の危険性を小さくしている.LOCは燃料の濃度によらず,燃焼が生じない最小の酸素濃度である.既往のLOC研究においては燃焼・爆発の予防に焦点が当てられており,LOC以下で生じたガスの有害性については議論の余地がある.そこで本研究では,LOC以下の組成で生じる有害性ガスに着目し,LOC以下での異なる組成領域に起こる反応を計算および実験的手法の両面から解明する.2022年度は,2021年度の確立した計算・実験的手法を用いて,炭化水素をモデル物質とし,生成する毒性ガスを計算から生成が予想されたアンモニアに着目した検討を実施した.計算では,モデル物質としたプロパンのLOCよりも低い酸素濃度領域でアンモニアの生成量に関して予測を行った.予測結果を基にした実験検討では,計算結果よりも低い酸素濃度領域においてアンモニアの生成量の極大値が存在することが明らかになった.また,コンビナート地区で使用されている一般的な化学物質を用いた実験においても,酸素濃度の違いがアンモニアの生成量に影響を及ぼす可能性が示唆された.今回検討したモデル炭化水素からのアンモニアの発生量は,急性暴露ガイドラインレベルでは中程度の危険性があることが分かった.さらに,臭気強度の観点からだと高い強度であり,社会生活に影響を及ぼすことが考えられた.イナーティング条件下で生成される毒性ガスを明らかにし,急性毒性だけでなく,社会生活への影響を考慮したリスク評価の実施が望まれる.
|