火災原因調査において、火災現場で採取した焼損物の材質を特定することは重要であるが、焼損物は火災の熱により溶融・炭化し、化学構造が本来の構造から大きく変化する可能性があるため、本研究は熱分解GCによる焼損物の材質の特定のための手法の確立を目指した。 本研究は以下の段階に分かれている。(1)様々な試料で加熱を行い、燃焼前後で大きく熱分解GCでの分析結果が異なる試料を確認し、研究の対象を明確にする。(2)疑似的に焼損させた分析用試料を再現性良く作製するための燃焼方法を検証する。(3)疑似的に焼損させた試料に関して、熱分解GCおよびFT-IRによる分析を行い、試料ごとに適切な分析手法を確立する。(4)火災原因調査における焼損物の同定に関する指針を作成する。 昨年度までに、セルロース、ポリアミド類等について(1)を実施し、燃焼前後で大きく結果が異なることを見出し、(2)についてTG-DTAによる試料の加熱によって、重量変化、熱分解GCでの分析結果が再現性良く得られる試料が作成できることを確認し、(3)について熱分解GCとFT-IRの分析の結果、それぞれ加熱による変化の傾向を把握した。 これらの結果を踏まえ、より材質同定が困難になると考えられる複数成分から構成される試料について研究を実施し、(4)について指針の作成を行った。綿/PET混紡試料による疑似的な加熱、熱分解GCによる分析の結果、PETよりも熱分解温度が低い綿に由来する成分は検知が困難であることを見出した。この結果から、火災原因調査における焼損物の同定に関する指針として炭化が進んだ試料では2成分以上である場合に誤判断をする可能性があることを考慮する必要があると示唆された。
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