当該年度では、前年度で見出したバッファー層を利用して、歪と電界による特異環境場を応用した組織変化の解明を目的とした。 (Hf0.5Ce0.5)O2//(001)YSZ基板上にエピタキシャル成長した(Hf0.5Zr0.5)O2膜を用いて、電界印加前後での組織変化を透過電子顕微鏡観察により調査した。これより、電界を印加した箇所と印加していない箇所でドメインの方位が大きく異なっている可能性が示唆されたことから、ドメインスイッチングが生じていると考えられる。しかし、リーク電流が大きいことから、十分な電界印加が困難であったため、決定的な観察結果を得るまでには至らなかった。そのため、各層の平滑性や膜質の改善が必須となる。また、バッファー層の有無によって抗電界に差異が生じなかったことから、さらに大きな歪印加が必要であることが分かった。 そこで、さらにドメインスイッチング現象を調査するために、膜厚100nmの(Hf0.9Ce0.1)O2膜を作製し、その圧電特性を測定した。X線回折および透過電子顕微鏡観察により、エピタキシャル成長した膜であることが確認され、100nm厚みにおいても準安定な直方晶相が形成されていることが分かった。また、電気特性の測定より、強誘電性および圧電性に起因したヒステリシスループを観測することに成功し、既往報告と同程度以上の圧電定数を示すことが分かった。さらに、電気特性の結果から、強誘電性ループに特異なヒステリシス挙動が観測された。詳細な構造解析の結果より、高対象相である正方晶相の形成が示唆され、それに起因した特異な挙動であったと考えられる。 以上より、電界印加時のドメインスイッチング現象に関する知見が得られた。また、厚膜化に成功したことから、スイッチングを利用した圧電応用の可能性が見出された。さらに、正方晶相の混在を利用した相境界での物性制御の可能性も示唆された。
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