研究課題/領域番号 |
19K15283
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光相変化材料 / 超高速分光法 |
研究実績の概要 |
2019年度は、研究対象である共鳴結合結晶のうち、PbTeを主な測定対象として研究を行った。PbTeは立方晶岩塩型構造を有し、優れた熱電材料としても知られている。岩塩型構造は、共鳴結合を形成するp軌道が最も歪みなく配列する結晶構造であり、PbTeの熱電特性は共鳴結合を持っていることに由来するという研究報告例も存在する。 アルゴンスパッタリング装置を用いて石英ガラス基板上にPbTe多結晶薄膜を成膜した。作成した試料に対してX線回折測定による結晶構造の同定、およびICP測定による組成の決定を行い、良質な多結晶薄膜が得られていることを明らかにした。この試料に対し、温度可変クライオスタットを使用し、低温から高温までの広い温度領域において静的な光学特性を調査するとともに、ポンププローブ分光法による測定を行った。実験によって得られた反射率・透過率の過渡的な変化から、自作した解析プログラムを用いることによって誘電関数の変化を求めた。 静的な光学特性の温度依存性を解析した結果、低温から高温へと試料温度が上昇するに従って、試料の光吸収量が減少するという特徴が明らかになった。共鳴結合の観点から考えると試料温度が高温であるほど共鳴結合が弱まることを意味している。この現象は、試料温度の上昇によって原子の熱振動振幅が増大すると、原子の平衡位置からの瞬間的なずれが増大し、共鳴結合の形成に必要なp軌道の長期的な配列が乱される事により生じていると考えられる。 さらに誘電関数の解析により、光照射が共鳴結合に与える影響のモデルを構築することに成功した。PbTeは光励起によって過渡的な結晶構造の変化は生じず、光励起の効果は原子ポテンシャルを浅くする役割を持つと考えられる。さらに、それにより生じた光誘起子振動が、共鳴結合の再形成を妨げる役割を果たすことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共鳴結合結晶の一つであるPbTeについて、静的な光学特性の特異性、および光励起動力学の合理的なモデルを提唱することに成功した。この物質は最も共鳴結合を形成しやすいと考えられる岩塩型構造を有しており、同様に共鳴結合を有すると考えられているPbS、PbSe、SnTe等もこの結晶構造を取る。これらは狭ギャップ半導体であることから赤外線検出器への応用も考えられている系であり、光特性を明らかにすることは非常に重要である。また、相変化材料として知られているGe2Sb2Te5(GST)やGeTeは、岩塩型構造から派生した結晶構造を有することが知られており、今回のモデルを適応して考察を行うことにより、これまでに得られていなかった知見を獲得可能であると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に得られたモデルの他の系への応用を行う。候補としてはPbTeと同様の結晶構造を有するPbS、PbSe、SnTeおよびGSTやGeTeが挙げられる。反射率と透過率を測定する必要がある都合上、これらのうち薄膜試料の作成が容易な系が望ましい。スパッタリング法で試料を作成する場合、Sは真空装置を汚染するため作業が困難であり、Seは毒性のためスパッタリングターゲットの準備が難しい。従って、PbTeと同様の結晶構造を有する物質としてSnTe、光相変化特性を有する物質としてGeTeを主な対象とし、試料の作成、光学特性の観測を行う。 またPbTeに対して、光励起原子動力学の観測を行うことを試みる。考案したモデルに基づけば、光照射によって生じる原子振動により、光励起直後から、試料温度によるものではない回折ピーク幅の増加が観測されると考えられる。用いる装置としては時間分解電子回折測定装置を考えている。この測定のためには、フリースタンディングな薄膜試料を作成する必要があり、他の系の光学測定と並行して試料の準備を行う。
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