酸化タングステン(WO3)は電圧印加や光照射により電子とプロトン(1価の水素イオン)が同時に注入され、電子伝導性が発現することが知られているが、注入されたプロトンの伝導特性についてはほとんど研究対象とされてこなかった。本研究では、水素が注入されたWO3(HxWO3)中のプロトンの伝導特性を明らかにすることを狙い、 ①昇温脱離ガス分析による試料中のプロトン(x)の定量 ②水素透過量測定によるプロトン拡散係数(移動度)の測定 ③プロトン・ブロッキング電極を用いたプロトン伝導度の評価 を行い、HxWO3中のプロトンが、従来のプロトン伝導体よりも高い移動度を示すことを実験的に証明した。これにより、HxWO3は高いプロトン伝導性と電子伝導性を兼ね備えた、混合伝導体であることが明らかになった。このような、混合伝導体は、燃料電池の電極や水素分離膜としての応用が期待される。 また、研究の過程において、HxWO3のプロトンが、水素を含まない雰囲気で脱離し、電子伝導性を失うという性質が明らかとなった。このことは、水素分圧の低い雰囲気での応用(例えば燃料電池の空気極や、水素量が少ない混合気体中での水素分離膜としての応用)が難しいことを示している。そこで、④CaドープによるWO3への電子注入、を試みた。CaをドープしたWO3(CaxWO3)は、300 ℃の空気中においても電子伝導性が維持されることが明らかとなった。このことは、WO3をベースとした材料が、水素分圧の低い雰囲気を含めた幅広い環境において混合伝導帯として機能することを表しており、その実用性の高さを示すものである。
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